『しらゆき』も『べにばら』ももしも女の子がふたり生まれたら、ひとりは純白な心を持つ清楚な女性になるよう「しらゆき」と、もうひとりは情熱的な心を持つ明るい女性になるよう「べにばら」と名づけよう。なんてことを考えてしまうほど、主人公の姉妹が可愛くてしかたないこの絵本。バーバラ・クーニーの描く女の子はいつも、不思議なほどけなげさが感じられます。 お話は、グリム童話の一編。貧しいながらも母親と仲良く暮らす姉妹のもとに、一匹のクマが現れるところから始まります。そこから、ふたりに不思議な出来事がおこり始めるのです。いろんな災難に遭いいつも助けを請う小人と、助けても助けても悪態をつくその小人に少しも動じないふたり。その姿には、思わず笑いがこみ上げ、そして、そんなふたりに幸...27Apr2015Blog
工藤さんと長さんと『てつがくのライオン』ライオンのてつがく、ではなくて、てつがくのライオン。哲学的なものを言うライオン、ではなくて、一生懸命哲学しようとするライオン。もう、それだけで愛おしくて笑ってしまう。 もともと工藤直子さんの詩の中にだけいたこのライオンは、長新太さんがその詩を読み、後から描き上げたのだそう。工藤さんの書く、けものの王であるライオンの、「てつがく」をしているけなげでとぼけた姿を、長さんの絵の具と筆が描く。その、ライオンのなんとも言えない表情!お二人の間に通じ合った、おかしみと誠実さが、この絵本には詰まっている。そんな印象を受けます。 きょうライオンは「てつがくてき」になろうと思った。哲学というのはすわりかたから工夫したほうがよいと思われるので、尾を右...22Apr2015Blog
『白雪姫と七人の小人たち』と森の中へハッとするほど目を惹かれるのは、その表紙だけでなく、お話とお話の間に、見開きいっぱいに描かれたナンシー・エコーム・バーカートの挿絵はどれもが、ページを捲る手を止めて魅入ってしまう程に、圧倒的な力があるのです。グリム童話の中でも特に有名なこのお話。残酷な表現が除かれた児童向けのものとは違い、こちらでは大人でも少しゾッとしてしまうような場面も書かれています。しかし、おかしな表現かもしれませんが、その不気味さもまた、絵の中の透明感に深さを与えているように感じられるのです。例えば、血が三てき、雪のうえにおちました。白い雪のうえで、赤い色は、たいそう美しくみえましたので、お妃は、こうおもいました。「はだは雪のように白く、ほっぺたは血のように赤...19Apr2015Blog
『夜のスイッチ』とダークという名の女の子むかし、〈夜〉の嫌いな男の子がいた。心惹かれる導入です。大人になった今でも、夜には不思議な時間が流れているように思う。夜は、暗闇は、終わらなかったらどうしようという、不安な気持ちにさせるのですもの。 男の子は明かりのスイッチが大嫌いでした。なぜなら、明かりのスイッチは消してしまうから、あらゆる、家中の明かりを。そんな男の子のもとに、ダークと名乗る女の子が現れ、明かりを消し、こう言います。 これはね、明かりのスイッチを切ることと違うの。 全然違うの!これは、〈夜〉のスイッチを入れるだけのことなの。 スイッチは切られたのではなく、入れられたのだと、言うのです。 そうして夜のスイッチを入れた男の子は、夜に、暗闇に、沢山の始まりがあること...13Apr2015Blog
『ジオジオのかんむり』に春のしらせ春になると、目を閉じてことりの声をきく、老ライオンを思い出す。 あたたかい風が吹いて、花が咲いて、虫たちがうごきだして、 春は、どうしたって、はじまりが、似合う。 思えば、そんな季節に、岸田衿子さんは亡くなられたのでした。彼女の書いた「ジオジオのかんむり」を、私は何度読みかえしたか。 大人になってから出会ったこの絵本は、中谷千代子さんの絵とあわせて、鞄に入れて持ち歩きたいくらいに、気に入っていました。 毎日つまらないライオンのおうさまに、わたしもつまんないんです、とむっつのたまごをみんななくしてしまった、はいいろのとり。それならばと、ライオンのおうさまは、自分のかんむりの中でたまごをそだてることを提案します。たまごの ぐあいは どう...07Apr2015Blog