『ジオジオのかんむり』に春のしらせ

春になると、目を閉じてことりの声をきく、老ライオンを思い出す。 あたたかい風が吹いて、花が咲いて、虫たちがうごきだして、 春は、どうしたって、はじまりが、似合う。 思えば、そんな季節に、岸田衿子さんは亡くなられたのでした。

彼女の書いた「ジオジオのかんむり」を、私は何度読みかえしたか。 大人になってから出会ったこの絵本は、中谷千代子さんの絵とあわせて、鞄に入れて持ち歩きたいくらいに、気に入っていました。 毎日つまらないライオンのおうさまに、わたしもつまんないんです、とむっつのたまごをみんななくしてしまった、はいいろのとり。それならばと、ライオンのおうさまは、自分のかんむりの中でたまごをそだてることを提案します。

たまごの ぐあいは どうかね

ぐあい よさそうですよ、おうさま


何十回目かで、ふと、声に出して読んでみたときに、何かこのおはなしのとても重要な鍵を、見つけたような気がしたのでした。今では空で言えてしまう。

はるが きて
たまごは ひとつ ひとつ
かえりました
ちいさな ひなが
ななつ うまれました
ジオジオの あたまの うえで
ちっち ちっちと なきました

文も絵も、なにも付け足せない、なにも取りのぞけない。
今思えば、岸田さんは詩人なのですから、そんなことは当然のことなのですが、彼女の作品を目にして初めて、私はおはなしを、絵本を、宝物にしたのでした。
春がくるたびに、宝箱のなかを確認するようにこの絵本を読みかえします。 そして、このおはなしを残してくださった岸田衿子さんを、そっと、偲ぶのでした。

ジオジオは よく めがみえません
でもジオジオは きいて いたのです
ことりの こえを うれしそうに
じっと きいて いたのです

たまごの ぐあいは どうかねぐあい よさそうですよ、おうさま

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