「新しい日々 芝木好子小説集」戦後の女流文学を代表する作家、芝木好子の晩年の短篇8篇を纏めた作品集が書肆汽水域より出版されました。この本に収録されている作品はどれも人間の恋愛が、それぞれの物語の中で淡く、強く、輝きながら光を放っています。遠い過去の恋が、現在をふと光で照らすその一瞬が切り取られているのです。描かれる恋愛は、多くはその只中にあるのではなく、過去に心に強く結ばれた紐を、そも結び目が未だに解けないままでいるのか、それともそれは固く結ばれていたように見えていただけの、見せかけの結び目だったのかを、確かめているようです。学生時代に憧れた少し年上の画家を、結婚した後に夫の出張で訪れたパリで、ひとり尋ねに行く女…。青年の頃にあった空襲の最中、暗い防空壕で夜をと...10Oct2021newsBlog文学
「四月の魚」正岡豊きみがこの世でなしとげられぬことのためやさしくもえさかる舟がある寡聞にしてこの短歌の作者、正岡豊という歌人を知らなかったのですが、偶々この一首を目にし、打ちのめされてしまいました。この一首が収録されているのは「四月の魚」と言う歌集で、元々は1990年に刊行されたものなのですが、今回のこちらの本は書肆侃侃房から今年八月に「現代短歌クラシックス」の第3弾として新装復刊し、発売された本です。このシリーズは現代短歌の重要な歌集を復刊、新装版として刊行していくシリーズとのことで、ちょっと調べるとどうやら自分が知らなかっただけで短歌が好きな方々にはよく知られた歌人のようでした。鋭く鮮やかで、時に痛々しくも感じるほどの、幾つもの歌。夢のすべてが南...05Sep2020news文学
「塩を食う女たち 聞書・北米の黒人女性」「ブルースだってただの唄 黒人女性のマニフェスト」藤本和子最近の当店の更新では、少し意識的に現在のBLM運動と関連して読めるような、遠く響き合うことが出来るような古書も更新をしております。今日は藤本和子さんの著作を二冊。小説好きの方にはリチャード・ブローティガンの翻訳者として名前を知られている藤本和子さんは黒人女性についての本も書かれています。この二冊「塩を食う女たち 聞書・北米の黒人女性」「ブルースだってただの唄 黒人女性のマニフェスト」はアメリカの黒人女性たちに語ってもらったことを書き記した二冊です。対話でもあり、インタビューでもあり、レポートでもあるような二冊の本。彼女たちの語る、それぞれの生い立ちや、家族のこと。アメリカで『黒人』で『女性』で、生きるということの声。以下引用は聞書の...01Sep2020news文学
「堀口大學訳短篇物語」横田稔 絵お知らせるするのが遅れてしまったのですが、当店がセレクトした本を置いている青山のハウスオブロータスさんは5月下旬より営業を再開しております。現在はヴィンテージの植物図鑑/花の本などを中心に展開しております。当店は来週から店舗営業も再開できそうですが、ハウスオブロータスさんの方にもお立ち寄り頂けたら嬉しいです。本日のオンラインストアの更新では絵本の他にこんな本も更新しました。「堀口大學訳短篇物語」の1と2の2冊です。文学/詩が好きな方にはお馴染みの書肆山田という出版社から出ていたものです。この出版社は詩を中心に出している、装丁がすこし特徴的な出版社で、ここの本は禁欲的とでも言えるような、そんな感触を与える佇まいをしています。この2冊も...04Jun2020news日々の絵本文学
「ボッティチェリ 疫病時代の寓話」バリー・ユアグロー 柴田元幸 訳「ボッティチェリ 疫病時代の寓話」(新品商品)アメリカ在住の作家バリー・ユアグローが、2020年4月5日から5月11日にかけて、都市封鎖状態の続くニューヨークから柴田元幸に送った12の超短篇を、1冊の小さな本にたのが本書です。(版元の説明より)柴田元幸さんのあとがき「この本について」では、“ある時期にひとつの場所を包んでいた、だがほかの多くの場所でもある程度共有されていた特殊な(と思いたい)空気を封じ込めた小さな本。”と説明されています。中綴じの、文庫サイズ程度の小さな本です。これほどまでに、今、すぐここで手に取り、読むことが、特別な意味を持つ本と言うものはこれまでにあったでしょうか。発行はignition galleryという小さ...02Jun2020news日々の絵本文学
「のどがかわいた」大阿久佳乃「のどがかわいた」大阿久佳乃2020年3月発売 岬書店/夏葉社本を読む楽しみ、詩を読む喜び。読書の魅力を噛み砕いた言葉、そして抑えられた美しい表現で伝えてくれる、もっともっと本を読みたくなる、そんな一冊です。ちょっと本筋の話ではないのですが、この本を紹介するにあたって、自分はこの本の著者がまだ10代(執筆時)だということを、書くべきなのか、それとも書かないでおくべきなのか、とても悩みました。まだ若い著者の才能溢れるエッセイ集。そんな風に書いて、その年齢の響きが呼び起こすある色彩。本を紹介する文句としては別に構わないかも知れませんが(そもそも自分はこういった書き方を好んではあまりしないのですが)、この本に関しては、著者の年齢をわざわざ...04May2020news日々の絵本文学
「ジョン」早助よう子皆さんもご存知の、アメリカ文学の翻訳家、柴田元幸さん。柴田さんは責任編集と言う形で、MONKEY(旧: MONKEY BUSINESS)と言う雑誌を作られていますが、その雑誌で柴田さんに激賞され誌上でデビュー(2011年)を果たしたのがこの「ジョン」の作者、早助よう子さんです。早助さんはデビュー後は「MONKEY/monkey business」「すばる」「文學界」などの文芸誌で幾つか作品を発表しましたが、しかし自身の単著としての本は出版はされていませんでした。この本は昨年2019年に、早助さん自身が自費出版という形で出した作品集です。自分がこの本を初めて読んだ時には、何故この作家が、大手出版社からではなく、自費出版という形でしか単...24Apr2020news文学
「ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集」 斉藤倫 高野文子 画本日より取り扱いを開始させて頂いた新刊書籍ですが、その第1弾としてまずは9点のタイトルが入荷しております。それぞれまた詳しくご紹介をさせて頂く予定でおりますが、まずはその中からこちら。「ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集」斉藤倫 高野文子 画昨年出た本なのですが、まずタイトルが良いですよね。何だか胸がドキドキするタイトルです。自分はこの本は発売後にすぐ買って読みました。とてもとても良い本で、うちのお客さんに勧めたいなあ、とずっと思っていた本なので、新刊を扱うことが決まった際にはまずはこの本、と決めていた一冊なんです。タイトルに、〜詩集となっていますけれど、詩集というよりは、詩を紹介する本、詩を楽しく読む本とい...01Apr2020news日々の絵本文学
「専門知はもう、いらないのか<無知礼賛と民主主義>」 トム・ニコルズ先日も少しだけ書かせて頂きましたが、当店でも新品の書籍の取り扱いをスタート致します。4月はじめにはオンラインストアの方にも、当店厳選の新品書籍のコーナーを作る予定(最初は数は少ないのですが、だんだん増やしていこうと思っております)ですが、現在でも既にお取り寄せの対応は可能でございます。全ての出版社に対応できる訳ではないのですが、1週間程度で新品の本をお取り寄せ出来ますので、amazonなどで注文する前に、当店のことも思い出して頂けたら嬉しいです!本日紹介するこちらは絵本ではないのですが、こんな本もお取り寄せ出来ます。(中古品も在庫ございます)「専門知はもう、いらないのか<無知礼賛と民主主義>」トム・ニコルズ(2019年みすず書房)本...24Mar2020newsBlog文学
詩誌 馬 創刊号今までは、当店では新刊を扱うことは今まであまりなかったのですが、昨日に引き続きこちらも新刊の紹介です。「詩誌 馬 創刊号」限定50部リソグラフで印刷された、まるで戦前の機関紙のような雰囲気の漂う詩の同人誌です。大正から昭和初期にかけて作品を残した農民詩人、猪狩満直の詩四篇と、詩誌馬の同人ГЕによる木版画作品からなる12ページの詩の冊子。驚くべきは、そのテキストの印刷です。既存の活字を使っているのではなく、一字一字、版画に掘り起こしたものを使用しているとのこと。このデジタルの時代に逆行するような、圧倒的な、手の仕事への指向性。表紙の馬の赤色。それはやはり、革命の「赤」を想起させ、馬というこの生き物も、農民の労働の象徴として見て取ること...11Mar2020news日々の絵本Blog文学
「音の糸」堀江敏幸高々と言うほどのことでもないのですけれど、うちの店の名前「Frobergue」は17世紀の作曲家、Johann Jakob Frobergerを由来としていることもあるので、クラシック音楽と、名前だけは親しい本屋だったりします。本日更新した本の中の一冊、堀江敏幸さんの音楽エッセイの本「音の糸」は、堀江さんが幼い頃から親しんできた、様々なクラシック音楽との出会いの記憶を辿る、短い章の連なりからなる本です。多くの、音楽について触れている本と同様に、聴いたことのない盤の名前が出るたびに一旦読書を中断してメモを取る、そんな楽しみももちろんある本ですけれど、特に記憶に残った一篇は、多く触れられているクラシック音楽のことではなく、著者の中学校で...11Oct2018news文学
Aoyama Book Center / Fuzkue / Yokota Hajime今日は今月の25日に閉店してしまう青山ブックセンター六本木店へ。自分は以前、六本木店ではないのですけれど、青山ブックセンターで働いていたので、やっぱり寂しいですね。閉店をもう数日後に控えながらも、相変わらず素晴らしい本屋でした。もう日は無いのですが、是非お時間合いましたら行ってみて下さい。働いていた頃にお世話になった上司にも、挨拶することが出来ました。その後は初台へ移動してFuzkueさん(@fuzkue)へ。ここはちょっと変わった、読書のためのお店。何よりも、居心地良く、来た人が読書を楽しむ時間を過ごすことを、恐らく至上命題としているお店で、だからこその決まりごと(?)も多いですけれど、こんなお店が日本にあることが誇りに思えるよう...23Jun2018news文学