『夜のスイッチ』とダークという名の女の子

むかし、〈夜〉の嫌いな男の子がいた。


心惹かれる導入です。

大人になった今でも、夜には不思議な時間が流れているように思う。

夜は、暗闇は、終わらなかったらどうしようという、不安な気持ちにさせるのですもの。


男の子は明かりのスイッチが大嫌いでした。

なぜなら、明かりのスイッチは消してしまうから、あらゆる、家中の明かりを。

そんな男の子のもとに、ダークと名乗る女の子が現れ、明かりを消し、こう言います。


これはね、明かりのスイッチを切ることと違うの。 全然違うの!

これは、〈夜〉のスイッチを入れるだけのことなの。


スイッチは切られたのではなく、入れられたのだと、言うのです。


そうして夜のスイッチを入れた男の子は、夜に、暗闇に、沢山の始まりがあることを知ります。そしてこれからは、そのスイッチを、いつだって入れていいのだと。


ブラッドベリの様々な著書を翻訳している北山克彦さんの、洗練されたリズムのある文章と、スイスの画家マデリン・ゲキエア氏の、捲るたびに違う色彩が飛び込んでくる、まさにスイッチを切り替えるように展開する絵。それらは完成された美しさがあり、1ページ1ページがひとつの作品のよう。


またこの絵本、以前に違う絵で出版されており、そちらには『夜をつけよう』というタイトルがつけられています。先日永眠されてしまった、日本を代表する児童文学作家、今江祥智さんが訳した文章は、今江さんその人のような、全編を通してやさしくてまるい印象。コールデコット賞を2度も受賞しているディロン夫妻の幻想的な絵と溶け合って、一編の映画を観たような読後感を味わえます。


同じお話で、違う世界。眠れない夜にゆっくり読み比べてみるのもいいかもしれません。

残念なことに現在はどちらも版切れ。ぜひ再版してほしい二冊です。

夜のスイッチ
夜をつけよう

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