『白雪姫と七人の小人たち』と森の中へ

ハッとするほど目を惹かれるのは、その表紙だけでなく、お話とお話の間に、見開きいっぱいに描かれたナンシー・エコーム・バーカートの挿絵はどれもが、ページを捲る手を止めて魅入ってしまう程に、圧倒的な力があるのです。

グリム童話の中でも特に有名なこのお話。残酷な表現が除かれた児童向けのものとは違い、こちらでは大人でも少しゾッとしてしまうような場面も書かれています。しかし、おかしな表現かもしれませんが、その不気味さもまた、絵の中の透明感に深さを与えているように感じられるのです。

例えば、


血が三てき、雪のうえにおちました。白い雪のうえで、赤い色は、たいそう美しくみえましたので、お妃は、こうおもいました。「はだは雪のように白く、ほっぺたは血のように赤く、髪の毛は、この窓わくの木のように黒い子どもが、うまれたらいいのだけれど……」


あるいは、


「あの子を、森につれだしておくれ。二どと、みたくもない。あの子をころして、そのしょうこに、あの子の肺と肝臓を、もってきておくれ」


独立した文と絵が、交互に見開きで現れる構成のこの絵本は、互いに距離を置いているようであっても、それぞれが前後のページに効果を与え合いながら展開されてゆきます。


そして、扉ページに添えられたバーカートの献詞、


クレアにーー

わたしたちは、いっしょに森の中をさんぽする

光と影が、ちらちらとおどっている中を……


ここにあるように、彼女の計6枚の見開きの絵の中には、そのほとんどに光と影が描かれています。私たちは、細部まで目を凝らし、その両方へ目を向けなければなりません。そうすることで、バーカートに案内され、グリム童話の森の深奥へと入ることができる、そんな気がするのです。


一見大人のためだけの本のように思えてしまうけれど、子どもの時この絵を見ることができたなら、どんな風に感じるのでしょう。少し怖いような、とても美しいもののような、でもどちらの印象が芽生えたとしても、きっと記憶の片隅に深く根付き、残っていくのではないかと、思うのです。





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