数えきれないほどの翻訳作品と、再話を手がけた矢川澄子さん。
ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」も、ブーテ・ド・モンヴェルが絵を描いた「ジャンヌ・ダルク」も、ジャン・ド・ブリュノフの「ぞうのババール」も私たち日本人はみーんな矢川さんの言葉でそのお話を知りました。
自著にはエッセイなどの読み物も沢山出されていますが、実は矢川さん自身がお話を書いた絵本はほとんどありません。いえ、おそらく完全に矢川さんのオリジナル原作の絵本はただ一冊だけではないかと思います。
それが、先日当店に入荷いたしました「おみまい」です。
絵は見ておわかりのとおり宇野亜喜良さんです。
詩人でもあった矢川さんの、一ページごとにほんのちょっぴりの言葉で紡がれた、短いお話。これはあくまで絵本だからと言わんばかりに、宇野さんの絵にどっしりと寄りかかっているような、けれども宇野さんの絵を見ていると、やっぱり矢川さんの言葉にグイグイ引っ張られているような。お互いが引きつけられるのをグッと堪えているような絶妙な距離感を感じるのです。
「だあれもいない みちばたの かきねにさいてた あかいバラ やっぱり みつかって しまったの ネコさん ネコさん このバラ とったこと だれにも いわないでー」
この静かにリズムを持って進行する言葉には、文字を追う目も自然と音を見つけます。そのリズムの中でふと宇野さんの絵だけのページが現れて、心地良い一拍を刻みます。
そして、宇野さんの描く絵には、表情を変えない女の子の代わりに、洋服の中のペンギンが表情豊かに動く遊び心が。
絵と言葉、それぞれのスペシャリストの、付かず離れずの調和を是非この本で味わっていただきたいです。
それにしても宇野さんの描くお年寄りは、本当にいつも個性的で魅力的。ご本人同様、粋でお洒落。そんなところも、宇野さんの絵本の楽しみのひとつです。
当店の宇野亜喜良さんの本はこちらです。
矢川澄子さんの本はこちらです。
0コメント