「やっぱりおおかみ」佐々木マキ

「やっぱりおおかみ」は佐々木マキさんの絵本のデビュー作で、1973年の発表以来今でも多くの人に愛されている名作です。

佐々木さんはそれ以前は漫画誌「ガロ」などに作品を発表する前衛の漫画家でした。60年代の後半に漫画家としてキャリアをスタートさせた佐々木さんでしたが、次第に絵本の仕事に興味を持つようになり、ちょうどその頃に知り合った福音館書店の松居直さんに絵本の仕事を依頼され、出来たのがこの絵本なのです。

絵本を作るにあたって、松居さんから参考にしろと渡されたのはセンダックの「まよなかのだいどころ」だそうで、このあたりのエピソードは佐々木マキさんの自伝エッセイ「ノー・シューズ」に詳しいですね。

さて、その「やっぱりおおかみ」はまだ読んだことのない方にどんなお話かと説明しますと、ある一匹の子どもの狼のお話です。

狼はひとりぽっちで、毎日仲間を探して歩いていました。

ですが町の中にいるのはうさぎ、鹿、ブタなどのそれぞれの集団ばかり(どれもみな人間のような社会生活を営んでいるようです)で、自分に似たもの(おおかみ)は何処にもいません。

夜になるまで歩き回っても、おおかみを見つけられず、そのおおかみは墓地で、「おれに にたこは いないんだ」と呟いて横になります。

横になったおおかみの上に(おおかみは眠っているのでしょうか…)はおばけが現れて、しかしそのおばけたちにも似た仲間が居るようです。

翌日(?)、おおかみは自分とは似た子はいないけれど、おおかみとしていきるしかないよな、そう悟って、何処か心が楽になる。

そんな風にお話は締めくくられています。

孤独を感じる心、他者と自分の間の関係、自分の同一性に折り合いをつける、主としてはそうしたお話だとは思うのですが、それでストンと腑に落ちる絵本でもないのが、名作たる所以でしょうか。

最初に感じる不思議な感じは、出てくる人物たち、オオカミ以外の人物たちは全て、オオカミから見たら捕食対象と思われる動物たちの姿形で描かれていることでしょうか。

これは、自分が傷ついたり、孤独を感じる時に他者を低く評価し、自分を誇大にすることの現れとも考えられますが、それが能力の差などで現されるのではなく、完全に弱肉強食の関係を感じさせる関係で描かれていることで、緊張感が異様に高まっています。

作者は何故、この緊張感を必要としたのでしょうか。

そしておおかみが墓地で横になる場面、ここでは3ページが使われていますが、特に2ページ目と3ページ目、おばけが3体現れるところですが同じような構図の絵が連続しています。この場面もちょっと不思議です。

そして最後ですが、おおかみは何処かの建物の屋上に居て、そこに繋ぎ止められていた気球(レモンの形をしているように見えます…)を、空に飛ばしてしまいます。気球は風にのって空の向こうへ飛んでいってしまいます。

個人的な感想ですが、おおかみはここで気球に乗って飛んで行く選択もあったと思うのですが、おおかみは気球には乗らずに、飛んでいく気球を眺めています。自分の心の一部をその気球に乗せて飛ばしたことは間違いないでしょうが、自ら乗って行ってしまうことはしなかったのでした。

挙げた場面以外にもこの場面は…と考え込んでしまう場面が多い絵本ですので、いつかこの「やっぱりおおかみ」で読書会などをして色んな人がそれぞれどう読んでいるのかを聞いてみたいですね…。

長く愛されている絵本だけに奥の深い魅力が詰まった絵本だと思います。

是非オンラインストアでもご覧ください。


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やっぱりおおかみ」佐々木マキ

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