皆さんもご存知の、アメリカ文学の翻訳家、柴田元幸さん。
柴田さんは責任編集と言う形で、MONKEY(旧: MONKEY BUSINESS)と言う雑誌を作られていますが、その雑誌で柴田さんに激賞され誌上でデビュー(2011年)を果たしたのがこの「ジョン」の作者、早助よう子さんです。
早助さんはデビュー後は「MONKEY/monkey business」「すばる」「文學界」などの文芸誌で幾つか作品を発表しましたが、しかし自身の単著としての本は出版はされていませんでした。
この本は昨年2019年に、早助さん自身が自費出版という形で出した作品集です。
自分がこの本を初めて読んだ時には、何故この作家が、大手出版社からではなく、自費出版という形でしか単行本が出ていないのか不思議に感じたほど、大変な衝撃を受けました。
読み終えてすぐに著者に連絡を取り、当店でも扱いたいとお願いしたのですが、その時には既に初版の200部(少ない!)は出荷してしまって手許に在庫がない、とのことで残念に思っていたのですが、この度、2刷が刷り上がったとの連絡を頂き、当店にも入れさせて頂いたのです。
この小説の凄さは、文章の凄さです。
小説は内容(何が書かれているか)が重要だと考えている人も居るかも知れませんが、小説で重要なことはそうではなく「如何に書かれているか」なのです。
こう言い切ってしまうとやや危険ですが、後者の方を重要視したほうが、より豊かな小説との出会い方ができるはずです。
ではこの小説の文章の何が凄いのか、これを説明するのはとても難しいです。(素晴らしい小説ほど、その小説の素晴らしさのしくみは解き明かせないものですね)文章を統制している、その奥にあるものが、今まで自分の知らなかった世界の法則で動いているように感じるのですね。
例えばそれはカフカを読んでいるときのような、ベケットを読んでいるときのような、不穏な感覚。そして文章がうねうねと運動しているような、感触。
別の世界を見ているのでなく、別の世界に触れているような感覚なんです。
人間の見た目をしているけれど、その中身は宇宙人、そんな人と話しているような、おかしくてちょっと怖くて、相手の話は支離滅裂のように感じることもあるけれど、それはただ自分が相手の世界のことをよく知らないだけなのではないか?などと思わせる、摩訶不思議な小説なのです。
知らない人と出会うのは楽しいです。
それも、自分とは全く違った生き方をして、違う言葉を話し、違う考えをもつ人。自分とは遠い生き方をする人。
この小説には、知らない人がたくさん出てきます。
会ったことのない、というのではなく(勿論そうではあるのですが)、得体のしれない人。
自分と異なる存在を感じることで、人は自らの不確かさを認めることが出来るのではないでしょうか。
難しい言い方になってしまっているでしょうか。
多様性と言うのは、他者を受け入れるということよりもまず、私自身を薄めることが大切であると思うのです。「私」ではなく世界の側に立つこと。
自分には、この小説を読むことそのものが、世界の側に立つことであるような気さえします。
このように色々と言うと難しい小説かな?と思われてしまうかも知れないのですが、そんなことはないんです。気軽に、個性的で優しい、ちょっと変な友達に会いに行く、そんな感覚で、この本を読んで欲しいです。
どこが面白いのかはよくはわからないんだけど、なんだか面白いな、きっとそんな風に感じて頂けると思います。
普通と違うことは、本当に楽しくて、面白いんです。
小説読みの玄人にも、初心者にも、どちらにもお薦めできる、小説を読む喜びに満ちた、新しい小説なのです。
「ジョン」早助よう子
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