当店でも度々紹介しておりますミルコ・ハナーク(1921-1971)はチェコの画家、イラストレーターで、多くのチェコに由来する野生動物を描きました。50年の生涯で150点以上もの絵本を残し、中国の水墨画からの影響も多く見られるその流れるような筆致と美しい色彩の調和はこの作家唯一のものと言っても良いのではないでしょうか。
この本はハナークの挿絵が、著名な作家や詩人の言葉に添えられた本になっています。
ゲーテやデューラー、ジーモン・ダッハ、なかにはウィルヘルム・ブッシュ(マックスとモーリッツ)の名前も見られます。
ハナークの絵本は、現在日本で新刊書店で手に入る唯一の本「動物たちのおしゃべり」はハナークの絵に山崎陽子さんが文章を付けたもので、そのことを思うと、このミルコ・ハナークと言う作家は、何処かその絵に言葉を添えたくなるような、そんな特別な引力をもった絵を描く作家なのかもしれません。
ところで、upした写真に一緒に写っている作品は先日、ヨリフネさんで購入させて頂いた杉本さなえさんの作品「誓い」です。
この作家さんも、その絵が多くの言葉を孕み、引き寄せている作家のように感じています。
オオカミ(と思っておりますが…)の中に花と蝶、そして塔のある建物(修道院のようにも見えます)が描かれています。
描かれたイメージ/図像は鑑賞者(わたし)の中で言葉になり、それぞれがつながり自分の内側で何か物語が立ち上がってくるようでもあります。
オオカミの毛色は真っ黒で、それはそのまま夜空の黒であり、夜空の黒ということはそれは平面の黒ではなく、深さのある黒なのです。
平面と深さを同一次元で実現している絵というとわたしは真っ先にアンリ・マティスの大傑作「赤のハーモニー」を思い浮かべますが、杉本さんの場合は平面芸術の限界を拡張しようとするようなマティス的な側面よりも、そこに絵とは全く別の次元のものを持ち込むことによって、絵の多重性を確保しているような方向を感じます。
それは古典的に言えば図像学/イコノグラフィーというものの系譜の上にあるものかもしれません。
(図像学では犬(この絵はオオカミではないかと言ってきましたが…)は忠誠を表します。それはこの絵の題である「誓い」と言う言葉とも響き合っています)
描かれたオオカミの夜の毛の中に映る花、蝶、星、修道院。それらはわたしの中で言葉になり、それぞれが何処か繋がるようで繋がらない…。これらを繋げるためにはわたしの中で新たな言葉が、物語が必要になってくるのです。
ミルコ・ハナーク、杉本さなえさん、時代も国も作風も違いますが、見ている人々にいつも言葉を呼び起こさせる、そんな特別な作家さんです。
当店のミルコ・ハナークの在庫はこちらです。
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