この絵本の作者ステパン・ザブレルはチェコ、プラハ出身の絵本作家です。
彼はプラハのフィルムアカデミーで学んだ後に、イジー・トゥルンカの人形アニメーションの制作助手の仕事につき、そのキャリアをスタートさせました。
その後、ローマ、ミュンヘンなどで美術アカデミーに通い、ロンドンではアニメスタジオの制作部長も務めたそうです。
子どものための本の挿絵、絵本も幾つも制作し、日本でも何冊かは翻訳で読むことが出来ますね。
こちらの絵本「Die Sterntaler」はグリム童話の、日本では「星の銀貨」として知られているものです。このお話は皆さんは知っているでしょうか。
貧しい女の子がいました。もう、両親も亡くなり、ひとりぼっち、住むところもない、あるものはただ着ている幾つかの服と、手に持っているパンだけです。
少女は歩いている途中で貧乏なお腹を空かせた男と出会いました。少女は彼のために祈り、持っていたパンをあげます。
また歩いていると、泣いた子どもがやってきて、頭が寒くて困っていると言うのです。少女は自分の被っていた頭巾を子どもにわたします。
そしてまた歩いていると…。
もう想像できるように、この少女は自分が持っていたもうほんの少しの僅かなものも、すべて他人に恵んでやるのです。
雪山の中で、少女はもう夜で真っ暗だから良いだろうと、自分の下着までをも与えてしまうのです。
するとどうしたことか、もうすべてあげてしまったはずなのに、少女はいつのまにかに服を着ていて、星が少女を照らしています。そしてその星が彼女に降り注ぐのです…。
無私無欲、そして慈愛の心、もうひとつ雪、ということもあるのでしょうが、何だか宮沢賢治を思い出すようなお話ですね。
ステパン・ザブレルはこのキリキリ痛むような清貧のお話を、とても美しい絵本に仕上げています。
雪の中を歩く少女はいつもほんの小さく、端に描かれ、画面のほとんどは雪の風景、そしてそこにいる、お話には書かれていない動物たちが描かれているのです。
ステパン・ザブレルは、このグリムのお話を描くにあたって、まず女の子を描いたのではなく、この世界を描いたのでした。
この広大な白い世界に、何も持っていない少女が居る。
しかしザブレルは不思議な絵筆のわざを使って、この少女の孤独を消し去っています。
笑顔で全ての所有物を分け与える少女は、まるでこの大きな白い世界と一体となっているかのように見えるのです。
最後の、星が降り注ぐ場面を見ると、その美しさに涙がこみ上げてきます。
ザブレルの絵本は、10冊ほどは見たことがあると思うのですが、個人的にはこの絵本が最高傑作だと感じています。
是非オンラインストアでもご覧下さい。
また、先日入荷した「東欧絵本の世界展」という図録ではこのステパン・ザブレルをはじめ、ドゥシャン・カーライ、ヨゼフ・ヴィルコン、イワン・ガンチェフなども紹介されております。宜しければこちらも御覧ください。
当店在庫はこちらです。
「Die Sterntaler」Stepan Zavrel
「東欧絵本の世界展 国境を越える 子どものためのアート」ドゥシャン・カーライ、ヨゼフ・ウィルコン、ステパン・ザブレル他
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