「かえでの葉っぱ」出久根育 Daisy Mrázková(1923-2016)

出久根育さんは以前ブログに書かせていただきましたが、こちらではご紹介したことがないかもしれません。

チェコの画家デュシャン・カーライに師事したこともあり、現在はチェコを拠点に活動されています。その絵はチェコでも大変評価されており、あちらの出版社からもたくさんの本を出版されています。当店スタッフも大好きな作家さんで、関東で個展をやられる時には必ず足を運んでいます。


数年前に東京のちひろ美術館で行われた出久根さんの展覧会では、絵本からでも充分に見て取れる絵の具の美しい重なりが、原画ではさらにその透明感や発色の美しさが際立ち、思わず息を飲んだことを思い出します。様々な手法で絵を描かれる出久根さんですが、中でもテンペラ画が一際目を引きました。現在ではあまり見る機会がない画材かと思いますが、会場では制作過程を説明したコーナーもあり、大変興味深かったです。


その時に原画を見た『かえでの葉っぱ』は、ちょうど今頃の季節にぴったりの絵本です。

枝から離れ、落ち葉となった一枚のかえでの葉が、風に乗り長い旅へ出ます。

季節を経て居場所を変えながら、かえでのその姿や色も次第に変わっていきます。

やがて、葉脈だけになったかえでの葉は、旅のはじまりの場所へと舞い戻り、焚き火の中で静かにそのいのちを燃やし尽くします。

これだけ読むと悲しいお話のように聞こえるかもしれませんが、沢山の場所へ行き、出会い別れ、また飛ばされ、そうしていのちの火を燃やしたかえでの葉には誰しもが重ねる部分を持ち、感傷とともに穏やかな気持ちを受け取ることと思います。


つい先日、このお話を書かれたデイジー・ムラースコヴァーさんが亡くなられたと耳にしました。日本でも、絵、お話ともに彼女が手掛けた絵本が数冊出ており読むことができます。自然や動物と心を通わすように物語を編み出してきた彼女が書いた、この一枚のかえでのいのちのお話は、1970年代に発表されたものでした。三十年以上の長い月日を経て、その物語に出会った出久根さんが、再びかえでにいのちを吹き込むように、丁寧に描き上げたのがこの本なんです。

そうやって、日本にいる私たちのもとまで運ばれてきたこの一冊の本を、私たちは読み続けていくことで、ムラースコヴァーさんのいのちの火をかえでに重ね、忘れないでいたいと思うのです。

住んでいるチェコの森の中を描いたという、その葉や枝の一本一本に宿る美しさを、きっとお二人が見ていたであろうその景色を、ぜひお手に取ってご覧になっていただきたいです。

当店在庫はこちらです。

かえでの葉っぱ」出久根育 デイジー・ムラースコヴァー

0コメント

  • 1000 / 1000