きみがこの世でなしとげられぬことのためやさしくもえさかる舟がある
寡聞にしてこの短歌の作者、正岡豊という歌人を知らなかったのですが、偶々この一首を目にし、打ちのめされてしまいました。
この一首が収録されているのは「四月の魚」と言う歌集で、元々は1990年に刊行されたものなのですが、今回のこちらの本は書肆侃侃房から今年八月に「現代短歌クラシックス」の第3弾として新装復刊し、発売された本です。
このシリーズは現代短歌の重要な歌集を復刊、新装版として刊行していくシリーズとのことで、ちょっと調べるとどうやら自分が知らなかっただけで短歌が好きな方々にはよく知られた歌人のようでした。
鋭く鮮やかで、時に痛々しくも感じるほどの、幾つもの歌。
夢のすべてが南へかえりおえたころまばたきをする冬の翼よ
フェンスへととびつく外野手空に出すその手をぼくにかしておくれよ
みずいろのつばさのうらをみせていたむしりとられるとはおもわずに
なんでしょう。言葉が指し示すイメージと意味、そして言葉自体が持つリズムや感触が一体になって、いつまでも耳の中で美しく響いているんです。
歌を読んだあと、言葉自体はもう通り過ぎてしまっても、胸にさらさらと砂粒のようなものが残り続けているような、そんな感覚を、どの歌からも覚えます。
ひらがなのなんとも言えない柔らかさとイメージの美しさ、そして寂しさが、これらの歌の美しさの秘密なのでしょうか。
日本語、すごいなと、久しぶりに感じました。
短歌の本はもともと発行部数なども少なく、この「四月の魚」の元版も古書価格がかなり高騰していたようで、一般に広く知られていた、と言うわけでは無かったようです。
本屋としては、今回のこのシリーズで流通することによって、普段、詩や俳句、短歌などをあまり読まない方などにも、多くの人に知られて欲しいですね。
お値段もお手頃で、新書版程度の判型で持ち運びやすいのも嬉しいです。出先でパッと開いて数首だけ読む、と言う気軽な読み方も良いのではないでしょうか。
当店オンラインストアの方からお取り寄せのご注文(一週間ほどでお取り寄せ可能です)が出来ますので、引用した歌が気になった方はぜひ、オンラインストアからご注文頂けましたら嬉しく思います。
それでは最後にまた少しだけ。
冥王星みつけた天文学者からすこしさみしさをわけてもらおう
もう色がいらないほどの生活をあのバス停で呼び止めようよ
「四月の魚」正岡豊
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