「COME AND HAVE FUN」Edith Thacher Hurd Clement Hurd

小さな子に読み聞かせをするなら、リズミカルなものだと大人も読みやすいですね。以前、長新太さんの「ごろごろにゃーん」を独特の節をつけて読み聞かせしている方の映像を見たことがあるのですが、子どもの食い入るように絵本を見る眼差しが印象的でした。

話は変わりますが、性質の違う生き物同士、その二匹だけでのかけあいは物語の成立においてとてもシンプルな、そして効果的な題材です。例えば「ウサギとカメ」や「かちかち山」などの昔話もそうですし、現代のベストセラー絵本「がまくんとかえるくん」や「だるまちゃん」シリーズなどもその類と言えるでしょうか。

こういった要素が両方揃った絵本は、絵、言葉、音が響き合って、子どもたちを夢中にさせる力があるのだと思います。きっとそうした絵本は数多く描かれているかと思うのですが、本日はその中から大人でも楽しめる魅力を持ったこちらの本をご紹介させていただきます。

アメリカの絵本作家クレメント・ハードが描く「COME AND HAVE FUN」です。一言でいってしまうとクレメント・ハード版トムとジェリーと言った感じでしょうか。ネズミをなんとか家から出して捕まえたい猫と、それを振り払おうとするネズミ、この二匹の間で交わされる短いかけあいだけで作られた小さな物語世界。ですが、そこには絵本の魅力がギュッと詰まっています。

クレメント・ハードの描く絵は、色彩を制限することで美しさを生み出しているように思います。本国アメリカを始め、世界中で愛されている「おやすみなさいおつきさま」の緑と赤、「とんでもないおいかけっこ」や昨年邦訳出版された「世界はまるい」での青とピンク。こうしたはっきりとした色づかいのものが特に印象的なクレメント・ハードの絵本ですが、この本では子ども向けとしてはやや落ち着いた印象を受ける茶色とグレーがメインの色になっています。一目見て美しい!と思うような絵本ではないのですが、植物や壁紙、金魚鉢といったちょっとした小物に見られるフリーハンドの線の楽しさや、やはりその色で出来上がった一つの完結した世界には、クレメント・ハードらしさが感じられます。

クレメント・ハードは妻であるイーディス・サッチャーとの共著を生涯で50冊ほども作りましたが、この本もイーディスによって書かれたお話にクレメントが絵を描いたものです。写真を見ていただけば、冒頭に挙げた、リズミカルな短い言葉の繰り返しで書かれたお話だとわかっていただけるかと思います。そこに、クレメントの絵が添えられているんですね。

ちなみに二人の息子サッチャー・ハード も、児童文学作家・挿絵画家で沢山の絵本を発表しています。

個人的に、クレメント・ハードはおいかけっこを描くのがとても上手な作家さんだと思っています。そういった題材が好きだったのでしょうか、この絵本のほかにも、上で挙げた「とっておきのおいかけっこ」、代表作のひとつ「ぼくにげちゃうよ」、未邦訳ですが「RUN RUN RUN」という絵本でも見事な?おいかけっこのイラストを楽しむことができます。

この絵本では、トムとジェリー同様、猫がちょっぴりマヌケでネズミが少しずる賢く描かれていますが、どちらもとっても愛らしいですよ。

シンプルなお話ながら、いえ、だからこそ、言葉のリズムとページをめくる喜びに溢れた一冊です。


当店のクレメント・ハードの本はこちらです。

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