「おちゃのじかんにきたとら」ジュディス・カー

先日、注意喚起の投稿をさせて頂いた「おちゃのじかんにきたとら」ですが、その後当店にも沢山のご注文を頂きました。誠にありがとうございます。

ご注文のタイミングで随分とお待たせしてしまったお客様もいたのですけれど、現在は当店にご注文を頂いたお客様には全てお渡しすることが出来たかと思います。

こんなタイミングではございますが、当店に1冊だけ中古の「おちゃのじかんにきたとら」も入ってきました。勿論定価より高いなんてことはありません。

新品も引き続き取り寄せ可能でございます。(店頭にも今は1冊ございます)

と、ちょっとこの絵本の流通も少し落ち着いたところですので、ちゃんと紹介もさせて下さい。

「おちゃのじかんにきたとら」ジュディス・カー

先日日本でもアニメーションが放映され、話題となった絵本ですね。

自分もアニメも見ましたが、やはり絵本の原作のほうが好きでした。

お話は、ある女の子ソフィーとそのお母さんがおうちでおちゃにしようとしていると、お腹を空かせたとらがやってきて、お茶の席に同席し、家中のものをなんでも全部食べて帰ってしまう。その後に父親が帰ってきて、夕食もないので外食へ行き、それから今度またとらが来ても良いようにおおきな缶詰を買っておくけれど、もうとらは来なかった、と言うお話ですね。

アニメも、その動きやリズム、絵の美しさ、そういう部分ではアニメも楽しく凄いなあと思ったのですが、原作の持っているニュアンスと少し違うように受け取られる感じがあったのがそこが気になってしまいました。

アニメ版だととらがなんだかちょっと人間っぽいんですよね。

意地悪そうにも少し見えたり、なにか意図や考えを持って行動しているように見えるんです。(こう感じたのは自分だけだったでしょうか?)

原作だとそれは少し違っていて、このとらは、ただの「出来事」のように描かれています。

ただとらがやってきて、ぜんぶたべちゃった!そんな風に。

それは何か意思を持ったものではなくて、ただやってきたものなんです。

上手く言えないのですけれど、このお話の主人公ソフィーは、この絵本の中で、とらがきて、何でも食べちゃっても、そしてその後も、ずっと楽しそうにしているんですね。(この、ソフィーが「ずっと楽しそうにしている」ということがこの絵本の素晴らしさの根源にあると思います)

そしてこのことはとても重要だと思うのです。

このとらがなにか人間を感じさせるようなものだったら、ソフィーがずっと楽しそうにしているということと、どこか矛盾してしまうと思うんです。このことを正確に説明するのは難しいのですが…。

このとらはやっぱりどこか、こどもの願いのひとつなんですよね。

そういう意味ではこの絵本はセンダックの「かいじゅうたちのいるところ」と似ていると思います。

かいじゅう=Wild=野生のものという、子どもが持っている原始性、それを開放するお話なんです。

だからそれは人間(特に意図を持ったように感じられる大人としての人間)と、遠く離れた存在でなければダメなんです。

この絵本の「かいじゅうたちのいるところ」との共通する部分としてもう一つ「料理」というものの存在もありますね。レヴィ・ストロースを持ち出すまでもなく、料理は人間の文化の象徴です。

「野生」のものと「料理」との対比。

どちらの絵本もこれがとても効果的に使われています。

もう少し突っ込むと「かいじゅうたちのいるところ」では父親は不在(と感じます)で、文化的なものへの帰還が、母なるものへの回帰と重ねられ、そうした意味で欠落を抱えたまま終りを迎える物語でした。

(勿論これはこの物語の欠陥を意味するものではありません)

けれどこの「おちゃのじかんにきたとら」では父親が帰り、外食へ行くと言う行為により、野生からの帰還が社会的なものへの回帰という形で描かれます。

夜の街の店の明かり、楽しそうに歩く三人の家族。

ちょっと難しい話になってしまったでしょうか。

「かいじゅうたちのいるところ」については以前やや長い論考を当店サイトに書いたことがあるので、それを読んで頂いたほうが今書いたことは理解しやすいかもしれません。

こちらです。


自分が言及した以外にもこの「おちゃのじかんにきたとら」が、多くの人に愛される、名作たる理由は、その作品の様々な部分から読み取ることが出きると思います。

そうそう、何より、絵が良いですよね!

この楽しい色使い。軽い言い方になってしまうんですけれど、すごくオシャレですよね。原作初版はなるほど1968年。60’sのフランス映画ファッションを見ているような感覚さえあります。

まだ読んだことのない方には、ぜひ読んでもらいたい1冊です。

オンラインストアの方でもご覧ください。


おちゃのじかんにきたとら」ジュディス・カー

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