「スガンさんのヤギ」ドーデ 作 エリック・バテュー 絵 Alphonse Daudet Éric Battut

この事についてはいつか詳しく書きたいと思っているのですが、絵本や児童文学において、教育的な含みが直接的にある作品に対しては、いつも一旦の疑問符を掲げて読んでしまいます。

このドーデ作「スガンさんのヤギ」もそのように、例えば「自由の素晴らしさとそれを得るための代償についてのお話」と読むのが自然なのかもしれません。

ヤギを愛するスガンさんと、囲いの中から飛び出して、山を駆け回ることを夢見るヤギ。スガンさんがどんなに話して聞かせても、結局そのヤギは飛び出して行ってしまい、言われた全くその通りに、オオカミに食べられてしまいます。

ドーデの書く、一晩中オオカミに食われまいと必死に戦うヤギの姿には、命の煌めきと美しさを、確かに見ることができます。

しかし、この絵本の絵を描いているエリック・バテューはその姿を大っぴらに描いたりはしません。大きな自然の風景の片隅で、小さく小さく、ヤギとオオカミが戦っているのが描かれているのです。

まるでそれはごく自然なことで、主人公はそのヤギの「自由」でも「生命」でも無いと言っているようにも見えます。

全編を通して描かれるバテューの赤色には「生き絶えるためだけに、夜明けを待っていたのだ」と書くドーデの、ヤギの命の響きが木霊しているのかもしれませんが、その絵から受ける印象は、ゴーギャンやセザンヌをも思わせる自然の圧倒的な力と迫力、そして叙情です。

ドーデの名作に、バテューが全く違った生命を吹き込んだ素晴らしい作品です。

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