宇野亞喜良さんと穂村弘さんによる絵本「恋人たち」は、このお二人の共作よる作品としてはX字架に続く二冊目の本となっています。
或る恋人たちの日常的な断片、それはコーヒーを淹れて、焼きたての時間に合わせて自転車を走らせパン屋へと行って、なんでもないテレビのニュースを二人で眺め、腕まくらで眠ること。
しかし宇野さん、穂村さんの二人の手にかかればコーヒーは甲虫で淹れられ、パンを焼くのはサイのパン屋、子供達が引いた網に人魚が掛かったテレビニュースが流れます。
溢れ出るイメージの断片、それらを描く宇野さんの絵は自作を含めた数々のイメージの引用で彩られます。
見返しデザインから既にモリス風、タイトルページではヒエロニムス・ボスが覗き、そして本編最初のページでは、そこから始まるイメージの引用を予告するかのようにコレット、ヘミングウェイ、プレヴェール、レオノール・フィニの肖像写真で飾られているのです。
何処にでもあって/何処にもない、(二人だけの)恋人たちの世界はまるで夢が現実に滲み出したように淡い。恋人「マリ」の安らかな寝顔に、どんな夢を見ているのか、想像している間に眠ってしまった若い男の夢のようでもあって、二人で一緒に見ている夢のようでもあります。
何処となく80年台後半の漫画作品の空気感も漂っているように感じます。
宇野亞喜良さんは大好きな作家さんのひとりなのですが、当店のお客様に余り上手にその魅力をお伝え出来ていないではないかと日々感じておりました。
作品にもよりますが、そのエロティックでもあり耽美的な作風から敬遠する方もいらっしゃるのかな、とも思ったのですが、それを理由に宇野さんの作品の魅力に触れないのはとてもとても、勿体ないです、と当店は断言致します。
この絵本を見て、宇野さんの絵の魅力はジャンルを越えて尚ある、絶対的なもののようにさえ思えるのです。
それは例えば、ジュネのように。
オンラインストアでは宇野亞喜良さんの作品をまとめて並べましたので、どうぞご覧ください。
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