この絵本はEleanor Mureによる「 The Tree Bears」です。
このお話は日本語では「三匹のくま」としてバスネツォフ版やポール・ガルドン版または片山健さんやあべ弘士さんのもので親しまれているでしょうか。
元々はイギリスの古い童話なのですが、トルストイによる翻案版で広く世界に知られるようにもなりました。
さてこのムーアによる絵本なのですが、この絵本が作られたのはなんと1831年。トルストイが翻案するよりもずっと前、三びきのくま絵本として現存するものでは最も古いものだそうです。
ムーアは4歳の甥の誕生日のお祝いに、プレゼントとして、この手描きの絵本を作りました。彼女は絵本作家や画家として成功していたわけでもなく、その後成功することもなく、一生無名のままで、1885年に亡くなります。
その後この手作りの絵本は児童図書のコレクションで有名なエドガー・オズボーンの手に渡り、後にそのコレクションはトロント図書館へ寄贈され、1967年にこの手作りの絵本は手書き原稿からの復刻版として、本としての体裁を整え、初めて公刊され、世に出ることになりました。
当店の在庫商品はこの1967年版です。
絵本作家として、画家として成功したわけでもない作者の作品ということで、その絵には一見稚拙さも残るのですが、素朴なこの絵はこのお話の古いままの形(それは古い民話や童話でしばしば見られますね。トルストイ版ではそうした部分は改変されています)の可笑しさと残酷さの混ざった部分と調和しているように見えます。
こうした部分はもしかしたら、現代の絵本には、どんな絵本でも見ることが出来ないような魅力にも感じられます。
シュールなような、可愛らしいような、そして何処かアウトサイダー・アート的な感覚も感じられるのです。
ラスコーなどと言ってしまったら言いすぎかもしれませんが、プリミティブな不思議な魅力を放つ絵本なのです。
歴史的な価値を別にしても、確実に特別の魅力をもつ一冊の絵本だと思います。
「 The Tree Bears」Eleanor Mure
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