こちらは、昨日入荷情報でもお知らせさせて頂いた、KIRINJIの堀込高樹さんがお話を手掛け、イラストレーターの福田利之さんが描いた「あの人が歌うのをきいたことがない」です。
「あの人が歌うのをきいたことがない」
タイトルにもなっている、こんな文章からこの絵本ははじまります。
あの人は歌っているのかな、誰に聞かせることもなく、ひとりで。
あの人が歌っている、歌っているのをきいた気がしたけれど、それは雨、風、虫の声で、気の所為だった。
まだきいたことがない、あの人の歌声。
語り手はぼんやりと、けれど切実に、あの人の「歌をきくこと」を求めています。
この、歌うのをきく、と言う言葉に隠されているのは、心を通わせること、理解すること、その人をもっとよく知ること、そうした心の交流を、心の触れ合いを求めたささやかな願いなんです。
あの人のことをもっと知りたい、あの人の考えていることについて色々と話してみたい、けれど何故きこえないのだろう。
そんな時に、語り手は自分の胸の真ん中に、何やらダイヤルがあることに気付くのです。
ダイヤルをグリグリ回してみると、雑音の中にかすかな声が聞こえた気がします。もしかして…、そう思い語り手はそっと慎重に、あの人の歌に近づくために自分の胸のダイヤルを回し始めるのです…。
僕は試みた
ダイヤルに手をあてて
あの人の呼吸を
あの人の歩みを
あの人の瞳の色を
とらえようとした
そしてやってくるあの人との、美しい出会い。
誰かのことを知りたいと願う切なさ、人と心を通わせることの喜び。
他人と気軽に触れ合うこともままならない、現在の状況の中で、人と人の心の交流の美しさを描いたこの絵本は、多くの人の胸の奥に届くのではないでしょうか。
福田さんのイラストレーションも、素晴らしいです。
この絵本を絵について、音楽的な比喩を使うのは野暮な気がするのですが、それでもやはり音楽的な感触は感じます。
それは和音、倍音を多く含んだような美しい響きに例えられるでしょうか。そして確かにあるリズム、テンポ、抑揚。
そもそも、絵本というのはとても音楽的なものだったのだと改めて感じます。
この絵本自体にずっと鳴っているかすかな、けれど確かな響き。それはもしかしたらこの福田さんの絵に由来していたのかも知れません。暖かな色彩、柔らかい線。
絵本を閉じる時には、ああ、自分も、ずっとこの歌がききたかったのだ、そう思っていました。
あの人の歌がうたうのをききたいな、また自由に外に出られるような日には。
当店にはCD付きの特別版(本作をもとに堀込さんが描き下ろした曲が収録されています)と絵本のみの通常版ともに、現在は在庫があります。
特別版の方に付いているCDですが、CDに福田さんのイラストが印刷されておりこれがモノとしてとてもとても可愛くてクラクラしますよ。
ぜひオンラインストアの方でも御覧ください。
「<新品商品>あの人が歌うのをきいたことがない(CD付き特別版)」堀込高樹 作 福田利之 絵
「<新品商品>あの人が歌うのをきいたことがない(通常版)」堀込高樹 作 福田利之 絵
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