永遠を見つけたと言ったのはランボーだ。
空と水平線の隙間、太陽と溶け合いながら消えて行く海。
西淑さんのこの作品集に目を通したときに最初に思い浮かべたのはそのフランスの詩人、ランボーでした。
ページを捲り、繰り返し描かれる夜空の中に、自分は永遠を見つけた気になったのです。
動物たち、少女/女性、鳥、木々、身の回りの日用品から何か物語の一場面のような絵まで、様々なものが描かれている中でも、とりわけ多く描かれているのは星でしょうか。
一つの星、二つの星、無数の星。透徹とした冬の夜空に瞬く星々。薄靄の中に浮かび上がる、月/星。
たった一つの星だけがいつも描かれるのであれば、それを絶対的なものとして意味を持たせることも簡単なのですけれど、この作家にあっては、どうやら星は唯一のものではないようなのです。
様々な場面の様々な星。
それは無数に広がり空に染み出していく、まるで永遠/無限としての星。
一つだけではなく、決められた数でもない、幾つもあるのだけれど、特別な光の存在。
もしかしたら自分は、もっと若かった頃に見上げた夜空を、その星を、思い出していただけなのかもしれません。
心がもっと、世界に対して無防備なままであった二十代やその頃の夜空。
見上げると、いつも何故か誰かから見下され覗かれているような気がした真っ暗で透明な夜空。明け方にまだ誰も通らない道を帰る、住宅街の上に浮かぶ明星、白い月。
寝転がって夜空に手を伸ばし星を欲しがったのは、きっとそれがたった一つだけのものではなかったからではなかったのか。
こんなにあるのだからひとつくらい。そんな言い訳じみた言葉を口にしたとしても、本当はその永遠に触れたかったのです。
作品集の中に描かれてるのは空に浮かぶ星だけではありません。
針葉樹に引っかかる星、それを摘む少女。食卓の皿の上に並ぶ星。すぐ手の先に星を浮かべる女性。
星に触れ、星と戯れる人々。
それは夜空に線を引きながら話された、古い物語。
またはじめに戻り、ページを捲りながら耳を澄ませば聴こえてくるのは星たちの声。永遠の歌。
その紙の上の星をそっと撫でながら、また自分の記憶の夜空を思い出そうとするのですけれど、それはもうまるで自分の記憶ではないかのようなのです。何度も話され、自分の身体とは離れた、別の古い物語….。
夜空に現れては消える無数の星。
また見付つた、
何が?
永遠が、
(Arthur Rimbaud/「永遠」小林秀雄訳)
本を閉じてもいつまでも残る余韻。宇宙の残響。
星の歌が聞こえたから、きっとこんな絵を描けるのだ。
永遠にじかに触れることの出来ないわたしたちが、束の間にでも永遠とともにいることの出来る、美しい本です。
初版限定1500部/4200円(税込み)
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