「Pekka und sein Pony」Walter Grieder

その不気味な魅力を「アウトサイダー・アート」と、そう一言で言ってしまうと、人間の多様性を否定してしまっている気がするので避けたいといつも思うのですけれど、どうしてもその呼び名が引き起こす、ある感触/ある傾向を持っている作品群というのは、多くの人の目には触れていなのですけれども、明確に存在しています。

自分とは全く異なったものとして、もしくは、自分の中にもあるけれど全くその存在に気付いていなかったものとして眼の前に現れるそれらの作品は、見るものに新たな視点と、発見を与えてくれます。

「Pekka und sein Pony」Walter Grieder

この絵本は、スイスで活動したグラフィックデザイナーWalter Griederの絵本です。

初期の頃は広告デザインの仕事を感じさせる、デザイン性の高い美しい絵本を描いていましたが、60年代の中盤から(当時のグラフィックデザインの潮流も勿論あると思うのですが)その作風は変化していき、何処かサイケデリック空気を纏うようになります。

60年代の後半には更にそこからも離れていき、冒頭に述べたような、曰く言い難い、ある傾向(それをアウトサイダー・アート的と言ってしまうのですけれど)を帯びた、不思議な感触の作品を生み出し始めるのです。

お話自体は一見、普通のお話です。

ある農村で暮らす一人の男の子、ペッカと、ポニーのビャルニのお話です。

ペッカはペットとしてもらったビャルニを可愛がる余りに、勉強や家の手伝いを疎かになってしまい、そのことを叱られたペッカはビャルニを連れて家を飛び出し、森のなかで一晩を過ごすのですが、ポニーの活躍により無事に家に戻ってくる、そんなお話ですね。

ですが、この絵本を支配する、不穏な空気は何でしょうか。

描かれた室内の空間は歪み、神経質とも思える繰り返される小さな模様、そして人々の血の気の引いた肌の色…。

こうした描かれたものに引っ張られてお話をもう一度読んでみると、その不穏の源はここではないか、と言う部分に気付きます。

それは兄の話。

ペッカの兄ユッカは弟をとても可愛がって面倒を見ていたのですが、ある日兵隊に召集される手紙を受け取るのです。

兵隊になる前の日に、ユッカは何処からかポニーを連れてきて、ペッカにプレゼントし、そうしてペッカはポニーのビャルニを、他のことが何も出来なくなるくらいに可愛がるのです…。

居なくなった兄を埋める代替物としてポニーに愛情を注いでいる、と読むのは自然なことに思えます。

また、叱られたペッカが家を飛び出したのも、兄に会いに行くためなのでした…。

最後、ポニーに連れられて家へと帰ってきたペッカは、心配していた家族に迎えられ、暖かいベッドへ入るのですが、この物語の最後でももう兄は登場しません。

兄は失われたまま、物語は終わっています。

この喪失の寂しさ、予感、その子どもの心の傷が、そのままこの描かれた絵に現れている、といった見方も出来るのではないでしょうか。

こうした特異な感触を持つ作品というと、例えば太田大八の「びんぼうこびと」だったり、ヨックム・ノードストリュームの「セーラーとペッカ」などが思い浮かびますね。

今挙げた作品と並んで、何処か恐ろしさを感じるような、すごい作品だと感じています。

ぜひオンラインストアの方でもご覧ください。


当店のWalter Griederの本はこちらです。

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