ぬまのうさんの絵本が読者に与えてくれる喜びは、日常の中の小さな幸せを、虫眼鏡で見るように拡大して、拡大して、その大きく見えた幸せがそのまま世界に広がって、空から海の端までまるごとくるんでくれる、そんなところにあると思うのです。
この作品の中で話される「とくべつなひじゃないと おいわいしちゃいけないの?」という言葉はそんな、虫眼鏡で小さな幸せを覗き込むための、お誘いの言葉なのです。
作者にはもしかしたら何か別の原則があるのかもしれないのですけれど、ぬまのうさんの絵本の登場人物たちはみな、何か行動をするときにはどれもそんな小さな幸せを、動機にしているように感じられます。
そしてみなが、幸せを見つける虫眼鏡を持っていて、それという時にはポケットから取り出してじっくり覗き込んでいるのです。
友人におみやげを買ったり、美味しいものを食べて、素敵な景色を見る…。
どれも大したことではないかもしれないけれど、拡大してみれば、何より楽しいことにも思える。
今の自分が絵本を読むのは、寝る前に子どもたちと一緒に読む時間がほとんどで、それは毎日少しだけ行われる小さな楽しみなのですが、もし、この時間で自分の世界全体を包み込めたら、と眠たい目でたびたび思います。
この絵本の主人公、ピュピュンのように、小さな幸せを飛び歩いて、日々を過ごせたら、どんなに素敵だろうか。
お話の方ばかり書いてしまいましたが、絵も素晴らしいのです。
ぬまのうさんの作品は、個展作品も含めて以前から色々と見させて頂いていましたが、作品を重ねるごとに素晴らしくなっていると感じています。
この『ピュピュン』でいちばん目を見張ったはの表紙絵(本では裏表紙)の家のある丘の花々の表現でした。初期のバーナデット・ワッツや、ヨゼフ・パレチェクを彷彿とさせつつ、現代的な感覚で平面処理されていて、これ、もう発明じゃないか?などと驚きました。
絵本で見てもとても良いのですが、原画は本当に素晴らしいので、ぜひ、展示期間中にご覧いただきたいです。
絵本も原画も、どうぞ御覧くださいませ。
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