子どもたちが橋をかけてくれる、こんなことを言うときっと今の時代には、そんなのは素朴すぎる、なんて、そんな風に言われてしまうのかもしれません。
マックス・ボリガーとシュテパン・サヴレルによる「子どもたちの橋」はどこまでも素朴な絵本です。
しかしその素朴は高度に濾過された、精錬された末のもの。もしくはこの現実世界の、美しい抽象世界であるような気さえします。
川を挟んで暮らす、二つの家族。
大した理由もなく、互いにいがみ合っています。
朝に陽が当たる家は、夕方に川の向こうの家を憎み、夕方に陽が差す家は、朝には川の向こうの家を憎んでいます。
憎しみの気持ちを持ったまま、日々は過ぎていきます。
心が平安な時は、日がちょうど川の真ん中にのぼる、正午だけなのです。
そのお昼の時間には、両岸の家とも、のんびりした気持ちになって、木陰の下で昼寝をして過ごしていました。
ある日の昼間、互いの家の子どもは、川岸に座って退屈していました。
川をよく見ると、今日は随分と水かさが減り、そこに石が頭を幾つも突き出しています。すぐに石に飛び移り、ぴょんぴょんと跳ねて行くと、川の真ん中の大きな石の上で、二人の子どもは出会ったのでした…。
心を通わせた子どもたちの思いは、次第に大人たちにも伝わり、やがてそれは大きな力となり、この大きな川に、橋を架けるまでになるのです。
美しく素朴な絵本です。
ここには何か、透き通るような純なものが、唯ひとつひっそりと輝いている気がします。巡る太陽、川にはいつも平和に暮らす水鳥たち。
ザブレルの筆は、この大きな自然の中の、小さな人間たちを描いています。
子どもたちが持っている美しさが、この小さな人間たちの中で輝いているようです。
他人とわかり合うことが、利益のためではなくあることができるのは、この素朴さ、この心の中の幼さによってなのではないでしょうか。
このザブレルの美しい絵本を見ると、そんなことを思ってしまいます。
自分もいつまでも、子どもの心で橋を架け続けたいと。
当店のステパン・ザブレルの絵本はこちらです。
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