大人になると、荒天をただ不便に思うことの方が多くなるように思いますが、子供の頃はもっと、雷や台風にドキドキしたりワクワクしたりしていたような気がします。
そんな気持ちを、この絵本を読んでふと思い出しました。あの、例えようのない昂揚感がページをめくるごとに蘇ってきたんです。
マーガレット・ブロイ・グレアムは、代表作「どろんこハリー」シリーズで知られるカナダ出身の絵本作家ですが、その愛らしい動物や子どもの描写から、子どものための絵本という印象が強いかと思います。ですが、昨年復刊された「ほら なにもかも おちてくる」や、この「あらしのひ」を見ると、グレアムの持つ詩情的な絵の魅力に一気に引き込まれてしまいます。
構成もその絵を十分に楽しめるようにでしょうか、文章と絵を交互に配し、それぞれが独立して読めるようになっています。お話を手がけているのはシャーロット・ゾロトウで、こちらも日本で翻訳された沢山の作品で親しまれている作家です。当店で以前ご紹介させていただいたセンダック絵の「うさぎさんてつだってほしいの」も、彼女の作品ですね。
お話はそのゾロトウが描写する、自然に囲まれた一軒の家の、静かな情景から始まります。からからに乾いた草や、うなだれたタチアオイ、かげろうを見る男の子や、暑くて歌も歌えない小鳥など、そこにあるものひとつひとつを大切に拾い上げるかのように言葉にしていきます。そして、ページをめくるとゾロトウが見ている世界が、グレアムによって見開きいっぱいに描かれています。そしてまたゾロトウの繊細な言葉で紡がれた嵐の描写。ページをめくると言葉に合わせ激しさを増していく雨、そして風になびく木々の絵。そんな風にして、ページをめくる行為そのものに、どんどんドキドキさせられていきます。
ゾロトウの言葉に導かれるように、グレアムの絵も視点を変えながら様々な嵐の場面を映していきます。大荒れの海を通りすぎ、羊飼いの奥さんがすやすや眠る赤ちゃんを抱っこして、窓辺で嵐を見つめている場面を過ぎると、やがてその視点は男の子の家に戻ってきます。
「あ、あれはなあに!」と男の子は弓なりの光を指さします。そして、答え合わせをするようにグレアムが大きな虹の絵を描いて見せてくれるのです。
激しい嵐の日の、独特の静けさ、心のざわつきがそのまま閉じ込められたような絵本です。
最後に書かれた訳者の松井るり子さんのあとがきが、読後の心にとても染み渡りましたので、少しですが引用させてください。
「私の一番好きな匂いは、夕立の振りはじめの匂いです。この絵本から、しめった畑土の匂いをかぎとることができました。観察に徹した描写によって、自然を見たときの、気持ちの静かな波立ちを味わうことができます。(中略)素朴な中に落ち着いた美しさのある絵本の古典を子どものそばに置いてやれるのは、うれしいなあと思います。」
この季節にぴったりの絵本です。お子様に、そして大人に、是非読んでほしい作品です。
当店のマーガレット・ブロイ・グレアムの本はこちらです。
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