昨日、今日と出演させて頂いたインターネットラジオ、OTTAVAさんで本を紹介させて頂いたのですが、やはりお話するのがまだ上手ではなく、お聞き苦しかったと思います。申し訳ございません。
昨日は生放送だったので自分の出演部分を聞いていないのですが、本日の放送分は収録して頂いていたので、今放送されていたのを聞いていたのですが、もう、反省の言葉しか出てきません!
もしまた次回このような機会があればその時にはもっとわかりやすくお話できたらなあ、と思うのですが、今日お話させて頂いたリロ・フロムの絵本の紹介は、補足説明として詳しくこちらに上げさせて頂きますね。
いつも思うのですがおすすめの本として、何か一冊を挙げるのは難しいことです。
たくさん本があって、その中から一冊を選ぶことはそれ以外の全ての本の可能性を薄めてしまうこととも言えるのですから。
それは例えば楽譜と、鳴らされた音の関係で言えるかもしれません。
鳴らされ、演奏された瞬間には、鳴らされる前の可能性としてあった他のすべての音色は排除されてしまいます。
しかしだからといって鳴らさないでいるままでも仕方がありません。可能性は実現されなければいけないので、その鳴らなかったすべての音に留意しつつ音を鳴らすことが大事なのだと思います。
作曲家でありピアニストである高橋悠治さんは何処かで、暗譜している曲でもピアノを弾く時に必ずは楽譜を見ながら演奏する、と仰っていました。それは今言ったようなこととも関係のあることなのではないかと個人的には思っています。
ですので、前置きが長くなってしまいましたが、選ばれなかった他のすべての本に留意し、目配せしつつ、いつも本を紹介させて頂いております。
こちらはドイツの絵本作家でリロ・フロムと言う人の絵本です。
日本語に翻訳されている作品も幾つかありますが、今ではもうどれも絶版のようですね。
日本での知名度はあまり高くありませんが、国際的な絵本の賞の受賞歴もあり、ドイツでは多くの絵本を出版しています。
この人の作品の中でどれか一冊、というのではなくて、この人の作品の共通の魅力をお話したいです。
リロ・フロムはグリム童話を原作に絵本を幾つも作っています。
グリム童話を描かせたら彼女の他に右に出るものはいないのではないか、なんて言うと大げさかもしれませんが、グリム童話の持つある側面をリロ・フロムは深く引き出しています。
それは決して明るいものではなく、暗く深い、しかし物語の原理そのものに迫るような古い物語の形です。
彼女の絵本のページを開くといつも不思議な感覚に襲われます。
パッと開いてみると、そこに描かれているのは夜、森の中のベッドで眠る人間の上で猫がヴァイオリンを弾いています。どんな場面なのでしょう?
違う本を開けば、花飾りを付けた帽子の女の子が、後ろ向きで、森の奥へ掛けていく子熊を見送っています。
またあるページでは、銃を持った男(猟師でしょうか?)の手を引き、着飾った女性が黄金の浴槽のようなものへ誘っています。そしてこの世のものとは思えない程に美しい金の鳥がそれを見ています。
少ない言葉でどれだけのイメージが伝わるでしょうか。
どれも不思議な場面ですが、実際に絵を見てみるともっと不思議です。不思議な場面なのに、あれ、このお話、もしかしたら読んだことがあるかもしれない...そんな風に感じるのです。
リロ・フロムの絵本は、遠い国の言葉で書かれた物語でも、その絵からは何処か聞いたことのあるような懐かしい物語の匂いに溢れているのです。
どの民族もみな、似た古い物語を持ってるのは、良く知られていることです。
自分は聞いたこともなかったはずの、祖父や祖母が幼い頃に聞いた物語を、まるで自分がただ忘れていただけだったかのように思い出す。
リロ・フロムの絵の語る物語は、見るものをそんな感覚に陥らせ、人間の心の奥の部分に触れてくるのです。きっとユングはその部分をアーキタイプと呼んでいたのでしょう。
リロ・フロムの絵を見るといつも、そんな物語の深い部分、人類共通の心象イメージのようなものに触れている気がするのです。こんな風に感じる作品を描く作家はなかなかいません。特別な絵本作家のひとりだと思います。
大人が絵本を読む喜びのひとつには、懐かしさ、というものがあると思います。
それはただ単に、ああ、この本は子どもの頃に読んだ、といった懐かしさではなく、子どもの頃に持っていた、今では失ってしまった感覚(それを短い言葉で正確に言うのは困難ですが)、例えば夜、暗闇が怖かったけれど、何か好奇心を掻き立てるようなものがあった、神秘的な夜への感覚、そうした無くしてしまった感覚を一時的にも呼び起こす、そんな懐かしさなのです。
そしてリロ・フロムが与えてくれる懐かしさはもっと遠くまで行っていて、「わたしが子どもたった頃」よりも遠い「人間がまだ子どもだった頃」まで、読むものを連れて行き、途方もない懐かしさへの中で、物語を語っているのです。
当店のリロ・フロムの絵本の在庫はこちらです。
0コメント