「A」はAPPLEのA、「B」はBIRDのBといった、いわゆるABCえほんはいくつもありますが、アップルパイひとつで、すべてのアルファベットを覚えちゃおうという絵本は、日本ではあまり聞いたことがないかもしれません。そんな大胆でユーモラスな発想で綴られた「Apple pie ABC」は1671年頃に作られた最も初期の、最も永続するアルファベット詩のひとつです。
そして、19世紀に入ると様々な言い回しのバリエーションが生まれ、その詩に今から130年ほど前、1886年にケイト・グリーナウェイが美しくもとぼけた場面を描いて一冊の本にしたのがこの「A APPLE PIE」です。
内容はこんな感じです。
最初のページ「A」の「APPLE PIE」から始まり、
B BIT IT(それをかじり)
C CUT IT(切って)
D DEALT IT(配って)
E EAT IT(食べて)…
と、ここまでは自然な流れなのですが、ここから少し様子がおかしくなり、ちょっとしたドタバタが巻き起こります。
グリーナウェイの描く人物たちが表情をくずさないものですから、アップルパイをめぐり様々なポーズをとる姿には余計にくすりとしてしまいます。
しかしながら、グリーナウェイが当時の読者を魅了した愛らしい子供たちの姿や、細やかで実にバリエーション豊かな衣装には、資料的な価値も含め、どこまでも絵を見る喜びを与えてくれます。
読むと気がつくのですがHの次がIではなく、Jになっています。これは、使われたABC作文が古い時代のもののためIとJが区別されておらず、そのためIから始まる文章が抜けているのだそう。
結びのバリエーションはいくつかあるようですが、グリーナウェイが自身のイラストだけで作り上げたこの歌の最後では、子どもたち全員が大きなスライスの乗ったお皿を持ってベッドへ向かうハッピーエンドです。そして、その時に子どもたちが着ている寝衣姿がまたとても可愛いんです。
こちらの本のほか、グリーナウェイの本がまとめて入荷しておりますので、お好きな方、ご興味持たれた方は是非サイトをご覧ください。
『UNDER THE WINDOW』は、ほるぷ出版の邦訳版『窓の下で』の緑の表紙とは異なり、茶色の紙カバーがまた一味違った良い雰囲気になっていますよ。
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