本日ご紹介する本は、絵本ではなく詞画集です。それも、ちょっと変わったコンセプトで作られている詞画集なんです。
「プルーストの花園」と題されたこの本は、短い詞と、花の水彩画で綴られています。このプルーストとはもちろん、20世紀の西欧文学を代表するフランスの作家マルセル・プルーストのことですが、その半生をかけて書き上げた大長編小説『失われた時をもとめて』のマドレーヌはあまりに有名な話ですね。紅茶に浸したマドレーヌを口にした時、ふと幼少時代の記憶が鮮やかに蘇る、というものですが、そのマドレーヌと同じような役割をプルーストにもたらせたものに、サンザシやキンポウゲなどの花々が挙げられるのではないだろうか。それだけでなく、プルーストの小説のいたるところに描写された様々な花たちは、あらゆる重要な役割を与えられているのではないか。そんな風にプルーストの花に着目した画家、マルト・スガン=フォントが、プルーストの小説から花に関する描写だけを抜き出し、彼女自身の絵を添え、一冊の本にしたのがこの詞画集なのです。
ですので、詞といっても小説の一部として書かれていた文章になるのですが、こうして抜き出し、再編集されることによって、ひとつの新しい作品となっています。プルーストの小説を読んだことのない人が読めば、きっと詩集や散文集のように楽しめるのはもちろん、その向こうに広がるプルーストの世界に興味が湧いてくるかもしれません。また、プルーストの小説をお好きな方でしたら、小説の中では気が付かなかった発見があったり、それこそ読んだ小説の記憶が鮮やかに蘇ってくるかもしれません。
そして、そこに添えられたやさしい色彩の花々が、涼しげにその姿を教えてくれます。
またこの本は、しっかりした角背上製本で、背には布が使われており、本文の紙も厚手のものを使用し、しおり紐も付いております。ずっしりと嬉しい重みのあるこだわりの製本は、原本をそっくり再現することを目指し、印刷も製本もフランスで行われたそうです。そうした作品としてのこだわりが、きっと私たちの読書を特別な時間にしてくれるのだと思います。
様々な要素から構成され一つの作品となる小説の中から、たった一つの視点だけで楽しむこうした試みはありそうであまりなかったのではないでしょうか。そしてそれは、とても贅沢な読書体験なのかもしれません。一日一ページ、あるいは季節に合わせて、プルーストの花園を少しずつ覗いてみてはいかがでしょうか。
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「プルーストの花園」マルト・スガン=フォント
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