野見山暁治さんの本を紹介するのは初めてかも知れません。
著名な方なのでご存じの方も多いかと思いますが、未だ現役で絵を描き続けている、今年で97歳になる日本を代表する洋画家です。
私は文藝畑の人間なので、その名前は絵よりも先に、名著と名高いエッセイ「四百字のデッサン」(とても面白い本ですよ)や、田中小実昌の義兄であるということを先に知っていたかもしれません。田中小実昌さんの小説がとても好きなので。
東京近郊の人には、東京メトロ副都心線、明治神宮前駅にあるステンドグラスの絵の作者、と言うと、見たことあるかも、と薄い反応がしばしば返ってきます。通り過ぎる場所の絵を、人はそこまで気にして見ないのかもしれません。
さて、この野見山暁治さんは画家としての仕事だけでなく、エッセイでも優れた本を多く出版しています。そしてまた、画家の仕事の延長として、絵本の仕事も数冊手掛けているんですね。
今回はそんな野見山さんの絵本の仕事の一冊「Seven at a Stroke」を。
これは、日本語では「いさましいちびの仕立て屋」や「ひとうちななつ」として知られているグリムのお話ですね。
この本の出版は英語教育の会社、ラボ教育センターの出版の絵本で、日本語/英語の併記版として発売されたものです。ラボ教育センターは良質な絵本の日本語/英語の併記版や、英語朗読CD付きのものを多数出版している会社ですが、この絵本のように独自の企画のものも多数出版しています。
その中には芸術と絵本の融合をねらったものも幾つか有り(ハイレッド・センターの三人がそれぞれ手掛けた絵本などがあります。こちら当店にも在庫ございます)、この野見山さんの絵本も、そうした中の一冊です。
表題作の他に、「かえると金のまり(カエルの王様)」「狼と七匹の仔ヤギ」「ホッレおばさん」の三篇が収録されています。
そのどれにも野見山さんの絵が付けられております。
野見山さんの絵を知っている方ならば、野見山さんの作り出す絵画空間と「お話」との結びつき/距離について気になるかと思うのですが、これが意外と言いますか、この絵本「Seven at a Stroke」では描かれているものが何なのか、素直にわかるんですね。
お話の中で出て来る小さな要素「チーズ」「小鳥」「蠅」「大男」「礼拝堂」「イノシシ」などなど、それぞれが絵の中で発見できるのです。
抽象的な絵は難しい、と言った思い込みがある方にも、これは入って行きやすいのではないでしょうか。そして逆に、抽象的な絵画を感覚でのみ体験していた人にも、また違った見方を促すきっかけになるかもしれません。
しかしその小さな要素は発見できると言っても、その絵全体の絵画空間とも言うべきものは、不思議な空間で満たされています。
奥行き、上下左右、そういった空間的なものが全く異質の感覚で描かれているのです。
これはもしかしたらこの絵がお話の挿絵であるということと関係しているのかもしれません。というのもお話である以上そこには時間の流れ/展開があり、その絵の中にも必然的に時間という概念が重要なものとして存在し、この時間の扱い方が野見山さんが描く絵画空間を独自のものにしているのではないかと思われるのです。
そう考えるとグリム童話を描いた「一枚絵」(ひとつの絵の中に物語の中の時間の異なった様々な場面を描いた絵)のようなことを、野見山さんは独自の感覚で描き達成したのが、この絵本なのではないかとも思えてきます。
どのお話のどの絵も、眺めていると、あれ、これって?と思う発見があり、そしてまた、いや、やっぱりこれは違うかも…などと、発見と新しい謎がいつまでも絶えない、とても面白い絵本です。
野見山暁治さんを好きな方にも、まだその作品を見たことがない方にも、見て頂きたい絵本です。是非当店オンラインストアでも御覧ください。
当店在庫はこちらです。
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