「メルヘン・アルファベット」タチヤーナ・マーヴリナ

タチヤーナ・マーヴリナの本は、前回「ちょうちょう」でご紹介しましたが、その際は文章を手掛けたコヴァーリを中心にお話しさせていただきました。本日はマーヴリナの絵の魅力を伝えるのにぴったりの本が入荷いたしましたのでこちらを紹介させていただきます。


20世紀のロシアを代表する画家タチヤーナ・マーヴリナは、二十代後半にロシア・アヴァンギャルド(当時のロシア帝国・ソビエト連邦における芸術運動)に参加し、その後、昔話などの挿絵を手掛けるようになり、後に国際アンデルセン賞を受賞する絵本作家となりました。


この「メルヘン・アルファベット」は、そのマーヴリナによるロシア版ABCブックなのですが、英語の26文字のアルファベットとは異なり、ロシア語のアルファベットは31文字あるそう。その31文字に2つの記号を加えた33のアルファベットひとつひとつにロシアの昔話やおとぎ話を当てはめて、お話の要素を取り入れたデザインで描いています。お話は、日本にはあまり馴染みのないものばかりではありますが、中には日本でもお馴染みの「てぶくろ」(この本では「小さなお屋敷」となっています)なども入っています。


何と言ってもこの本の魅力はマーヴリナの絵にあります。文字の中にとじ込められた踊るような線で描かれた登場人物たち、そこへ時折ページ全体を使ったお話のシーン(一枚絵と言ってもいいかもしれません)が飛び込んできます。特筆すべきは中のページの発色の良さでしょうか。赤や緑、金、そして黒までもが立体的に感じられるほどに鮮やかで、本を読んでいるという視覚的な刺激を飛び越え、見ることで絵に触っているような不思議な感触を覚えます。読むと「高い印刷技術を誇るモスクワの造幣局で印刷された原本を、忠実に再現した」とのことで、なるほど、と納得してしまいます。


マーヴリナの描く素朴な線と鮮やかな色彩は、彼女自身が収集していた古い民芸品やイコンからの影響を受けていると言われています。それらは日本の民芸品ともどこか通じるものがあり、例えば芹沢銈介さんの文字絵などと重なるものがあるように思います。昔話やおとぎ話へと通じる懐かしい感触、とでもいうのでしょうか。


そんなマーヴリナの絵の持つ不思議な魅力をこの本では大判で楽しむことができ、ボリュームも十分にあります。そしてさらに素晴らしいのは、巻末には作者マーヴリナのこと、この本のこと、ロシアの自然や民芸品のこと、ロシア語のアルファベットの読み方、そして描かれているすべてのお話が記載されており、この本を読めば深くマーヴリナとロシアの昔話の世界に触れることができるのです。


登場人物たちが詰め込まれたマーヴリナの装飾文字は、これから語られる内容の予告編のような役割を果たします。それは、マーヴリナが呼びかけていたこんな言葉を、そのまま実現させたもののようではないでしょうか。


「お話の世界の入り口はどこにでもある」

「真っ赤なお日さまの下 くっきりしたお月さまの下 空いっぱいの星の下に 不思議な世界が広がっている」


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メルヘン・アルファベット」タチヤーナ・マーヴリナ

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