「ton paris」茂田井武

茂田井武さんは戦争のすぐ後、1946年頃から子どものための本の挿絵、童画の仕事を中心に旺盛に活動したイラストレーターでした。

しかし1956年、まだ48歳の若さで亡くなってしまいます。

この画集「ton paris」は彼がまだ何者でもなかった頃、20代の前半、1930年〜33年にかけてパリで生活をしながら描きためた、パリのスケッチ集なんです。

茂田井武さんは画学生としてパリへ行ったのではありませんでした。

勿論、絵の仕事を目指すひとりだったのではありますが、日本で美術学校への入学に失敗し、鞄一つで京城、ハルビン、モスクワ、パリへとシベリア鉄道で向かったひとりの若者でした。

幸運にもすぐにパリで仕事を見つけましたが、パリの美術学校へ通うこともなく、美術館へ足繁く通うでも、当時パリの日本人の美術系交流の中心であった藤田嗣治と関係を深めることもなかったようです。

パリの市井の人々とともに生活し、そうした日常の中から切り取った情景を自分のノートに描きためていたのでした。

それがこの「ton paris」です。

瀬田貞二さんは茂田井さんの絵について「物語る絵を描いた人だった」と言っていました。

成る程、この画集を見ると、1930年代のパリの、生活の中の雑踏や囁き、人々の淡い思い、挨拶やため息が聞こえてくるようです。

バーのマダム、食料品店の前の親子、地下鉄のホームの人々、カフェのギャルソン、パリ祭、パン屋の少女、オルゴール弾き。

そのどれにも物語があって、夢見るように囁いているのです。

それはあまりに美しく、まだ20歳そこそこの作者の、天才的な感性が輝いています。

茂田井さんの童画の仕事とはまた違った、デザイン性豊かで、非常に洒落た画集です。

この画集は2010年に復刻されておりますが、当店の在庫商品は1994年の旧版です。是非御覧ください。


当店在庫はこちらです。

ton paris」茂田井武

0コメント

  • 1000 / 1000