「せんろはつづくよ」M.W.ブラウン 文 J.シャロー 絵

この絵本の絵を手がけるジャン・シャローはアメリカで活躍した画家/イラストレーターで、お話を書いたマーガレット・ワイズ・ブラウンとともに出した絵本は日本でも「おやすみなさいのほん」をはじめとして幾つか出版され親しまれています。

シャローの何処と無くプリミティブアートを思わながらも、親しみやすいイラストレーションは懐かしさと同時に新鮮さも感じさせますね。

この「せんろはつづくよ」のお話は、男の子と女の子の二人が汽車に乗って西へ西へと旅をして行くというもので、 内容を楽しむというよりは、言葉の音やリズムを絵と一緒に楽しむもので、まだ本当に幼いお子様向けの絵本だと思います。

おそらく英語由来だと思うのですが、汽車の走る擬音や、七五調に訳された言葉は口に出すと気持ちが良く、子どもの耳にもやっぱり楽しく響くのだろうなぁと想像されます。

しかし、それでただの子どもの向けの絵本に収まっていないところはやはりワイズ・ブラウンの凄さを感じます。

この絵本の中で汽車がひたすら西へ西へと進むのは勿論アメリカの大陸横断鉄道における西部開拓の歴史をなぞったものだと思われますし、そう考えるとジャン・シャローのこの作風、プリミティブアートからの影響も、内容と見事に調和したもののように感じられるのです。

西へ西へと旅をした男の子と女の子は、最後には西の果ての海へと辿り着きます。

ようやく にしに つきました

おおきな あおい うみでした

2だいの ちいさな きかんしゃは

のこえ やまこえ きたのです

ながい ながい たびでした

くたびれたけど きみと ぼく

あかるい うみに つきました

たのしい うみに きたのです

読者は不思議な開放感、高揚感に包まれます。ずっと追い求めてきた場所に辿り着いた、思い描いていた理想郷に来ることが出来た、そんな、夢見るような感覚です。

これは、この引用した短い部分にきっと多くの大人たちが、自分たちの色々な個人的な文脈を重ねることが出来るからではないでしょうか。

ながい ながい たびでした

くたびれたけど きみと ぼく

あかるい うみに つきました

たのしい うみに きたのです

こんな風に、短い言葉の中にも多くの文脈/記憶を含ませていく楽しみが、年を重ねる喜びのひとつでもあるとも思ってしまいますね。

小さいお子さんから、大人まで楽しめる、とても美しい絵本です。

余談ですが、その辿り着いた西の海はきっと、私たちも良く知る太平洋の向こう側で、これを思うと絵本好きの方は五味太郎さんの名作「うみのむこうは」を思い出すと言う幸福を味わえるかもしれません。


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