「絵本のなかへ帰る」高村志保

岬書店/夏葉社の新刊「絵本のなかへ帰る」(2月25日発売)が当店にも入ってきました。

長野県茅野市の老舗書店「今井書店」の店主高村志保さんの、絵本についてのエッセイ集です。

記憶を辿ると紐解かれる、28冊の思い出。

自分が持っている幼い記憶の中に、絵本の記憶があるというのはなんて幸せなことなんでしょう。

絵本の記憶を辿って立ち上がってくる過ぎ去った日々は、この本の著者のみならず読者をも、それぞれの幼い日々の記憶へと連れていってくれます。


『お布団に行かなくても唯一怒られないこと、それが「本読んで」だった。どんなに父の機嫌が悪いときもその一言でなにかが変わった。しょうがねえなぁ、そんな雰囲気を醸し出すときもあった。でも読まないことはまずなかった。機嫌が悪くても読みだすと、いつもの父に戻っていった。そんな父がある日「おやすみなさいフランシス」を読んでくれた。父はいつも膝の内側に私を入れて絵本を読んだ。私はまさに、フランシスだった。もう一回、もう一回、と読んでもらった』


自分が娘に今、絵本を読んでいること。そして幼い頃に読んでもらった、読んだ、絵本のこと。この本を読みながら自分自身が、記憶の中の絵本へと帰って行くのです。

自分の記憶を辿りながらも、この本を読んでいて一番思っていたのは、今自分の目の前にある、子どもとの絵本の時間がどれだけ特別な時間なのだろうか、と言う事でした。


自分は子育ては、なんだか青春時代のようだと、最近しばしば思います。

留めておきたいと思っていても、子どもはどんどん、どんどん大きくなってしまうので、今そこにある大切なものが、もう目に見える形で過ぎ去ってしまう。歩くような音楽でそのまま通り過ぎてしまうんです。

あの頃もそんな風に、自分は感じていた気がします。今でも偶に思い出す十代の頃。

その時間を、自分が何処かに刻み込めたのかはわからないのですけれど、今子どもたちといる時間は、もしかしたら一緒に読んだ絵本の中へ閉じ込めて置くことが出来るのではないか…、そんな自分と子どもたちのお話は「大きな絵本」になって、二人だけにはいつも読むことが出来るのではないか…。


「絵本のなかへ帰る」を読んでいると、そんな気がしてくるのですね。

色々な絵本を読んで分け合った思い出が、もっと大きな、自分と子どもたちだけの「大きな絵本」になって、自分たちが帰ることの出来る場所の窓になる。


「くまさん読んで」とせがまれて娘と最近よく読むのは、フィービ&セルビ・ウォージントンのくまさんシリーズです。様々な仕事をするある意味抽象化された「くまさん」の淡々とした一日を描く絵本。

娘がこの絵本の何処を気に入っているのかはよくわからないのですが、自分がこのシリーズを好きなのは、その描かれた一日に確かな強度を感じられるからです。

フィクションなのですけれど、生きている確かな一日がそこにあるんですよね。

パン屋の、牧場の、石炭屋のくまさん。それぞれが確かな一日を絵本の中で生きている。


子どもたちといつか読む「大きな絵本」にも、このくまさんのように確かに生きている一日を描き記す事ができるのでしょうか。


『絵本は不思議だ。過去と現在を自由に繋げてくれる。そして、それはきっと、未来とも繋がっている』

と言う著者の言葉を何度も反芻します。


ああ、今日も帰ったら子どもと絵本を読もう。

「絵本のなかへ帰る」は、わたしたちが何度も、絵本の中へと帰っていくための、その道を灯す、素敵な本です。


ところでこの本はどちらかと言うと薄めの本(158ページ)ですけど、読みながらも立ち止まって、一旦本を閉じて物思いにふけってしまうことが多い本なので、スピン(紐)がちゃんと付いているのが嬉しいですね。

岬書店(夏葉社)の本はamazonや大手書店では扱っていないことが殆どですので、是非当店で如何でしょうか。



絵本のなかへ帰る」高村志保

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