20世紀後半アメリカ文学の空気感をまとった、静かに胸に響く絵本です。
「とるにたらないおとこの話」さかたきよこ/タダジュン
日の目を見ないひとりの芸術家と、その猫サヴィの、とるにたらない日常の日々。
何が起きるわけでもない。
好きな版画を彫り、猫との食事、旅立つ友人を見送り、似ているようで似ていない、日々の生活の中の少しの悲しみと、喜び。
自分がこの絵本を読んで一番最初に思い浮かべた作家はレイモンド・カーヴァーでした。
どことなくヒリヒリする肌感覚。そして日々の中に突然訪れる恩寵の予感。
カーヴァーの小説で自分が好きなのは、その小説の中にただの日常があることです。輝かしい青春や、燃えるような恋があるのではなく、この退屈な日常があること。
憂鬱な朝や、ただ風が気持ちよく感じる日。
そうした日々の組み合わせの中で、奇跡のように訪れるこの日常から抜け出せる(かのように思える)不思議な感覚。
そしてそれはまた短い時間で過ぎ去っていく。
「とるにたらないおとこの話」は、とるにたらないわたしの話なのだと、誰もが感じるのではないでしょうか。
自らのとるにたらなさを、鼻で笑って、それでも愛さずにはいられない、なんでもない、特別なただひとりである、すべての人のための絵本です。
ところでカーヴァーとは別に、もうひとりの作家を思い出してもいました。
それはサリンジャーです。
サリンジャーの「フラニーとゾーイ」の中で、その終盤で語られる「ふとっちょのおばさま」の話を、この「とるにたらないおとこの話」を読みながら思い出していました。
どれも、この日常を、ほんの少しだけ力強いものにするための、人の心の底に備えておくべきお話だと思います。
※こちらの絵本ですが、初回入荷分は全て売れてしまったのですが、5/31までにご注文を頂ければお取り寄せでの対応をさせて頂きます。
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