「Die Schwanenjungfrau」Lilo Fromm

暑い日が連日続いておりますね。

どうか皆様無理をなさらずに。

当店からはせめて少しでも涼し気な絵本を。

美しい白鳥の姿。背景には深い森の中なのか、暗闇の中で、輝くように洋梨が生っている、そんな表紙の絵本です。

スワンメイデンと呼ばれる世界の各地に伝わる古い物語をご存知でしょうか?

日本ではその類型として所謂「羽衣伝説」というのが良く知られています。

天からやってきた天女が松の枝に掛けていた羽衣を漁師に隠され、その漁師と結婚することになるけれど、その後羽衣を取り戻しまた天に帰っていく、と言うお話ですね。

これらはそもそも異類婚姻譚という古い古い物語の「型」のヴァリエーションであると言われております。

恐らく社会生活を始めた人間というものにとって何処ででも、何時でも起きうる重要な出来事なので、世界各地でそうした物語が生まれたのだと想像できます。

日本でよく知られているお話の起源は古代インドの聖典リグ・ヴェータ(紀元前1000年以前)であるとも言われており、それだけでも、このタイプ物語の古さ、普遍性を知ることが出来るのではないでしょうか。

さてこちらの「Die Schwanenjungfrau」も、そうした物語のひとつ、スワンメイデン(白鳥処女)と呼ばれているものです。

古い伝説からは脚色が色々とされているのですけれど、これはドイツの作家Tilde Michelsがアメリカのスワンメイデンを基にお話を創作したようです。

そして絵を描いているのはドイツの絵本作家、リロ・フロムです。

あるところに梨を大切に育てている王様が居て、毎日その生っている梨の数を正確に数えていました。

しかしある朝数えると梨が少なくなっていて、計算が合わないのです。

怒った王様は原因を突き止めようと、三人の王子たちにその役目を任せます。

長男、次男とその原因を突き止めることが出来ないのですが、三男の王子は夜中に一羽の白鳥が梨を取っていくのを目撃するのです。

王子はすぐに白鳥を撃って捕まえようとするのですが、白鳥は自分は三つ目の魔女に囚われていてこんなことをするのです、と王子に助けを求めるのです…。

そして王子は白鳥を救うため、魔女のところへ赴き、魔女の出す様々な難題に挑んでいくのでした…。

やはりリロ・フロムはこのようなファンタジーを描くのは本当に上手ですね。グリム童話をはじめとした、こうした古い物語の深みを巧みに引き出しています。

以前にも書いたことがありますけれど、リロ・フロムの描く青、その世界の夜空の青は、不気味ででも何処か懐かしく、遠いようでしかしとても近い感じもする、不思議な青なのです。

表紙の白鳥もとても魅力的ですね。

表紙の中から白鳥だけが輝き、浮かび上がっているようにも見えます。

深い夜の闇の中を、その真っ白い白鳥が王子を乗せて、魔女の住む場所へと飛んでいる場面は、初めて見る場面でも、胸の奥では何故か懐かしさを感じるのです。

人間たちが、異なった時代、場所においても、同じ物語を持っていることの不思議を、リロ・フロムはその絵で表現できているのだと思います。


当店のリロ・フロムの絵本はこちらです。

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