Pere Castor / Rojankovsky / Lida 石井桃子 / 大村百合子

昨日、ペール・カストールシリーズ、ロジャンコフスキー/リダの絵本の、1940年代のイギリス版(リトグラフ)、1962年フランス語版、そして1964〜65年の日本語版をオンラインストアに更新しました。

日本語版のものは現行版(童話館出版/2002年〜)と違い、原書版と同じ判型で、版元も福音館書店です。

そしてなんと、訳を見て驚いたのですが、石井桃子さんの名前と並んで大村百合子さんの名前もあるのです。現行の童話館出版のものは訳は石井桃子さんの名前だけが載っています。

大村百合子さん?と一瞬思う方もいらっしゃるかも知れませんが、ぐりとぐらシリーズの山脇百合子さんですよ!中川李枝子さんの実妹の。

以前、中川李枝子さんの講演会で、福音館書店などを通しての石井桃子さんとの交流のお話など、伺ったことがあったので、ああ、こんなところでも一緒にお仕事をされていたんだ!と何だかちょっと胸がいっぱいになってしまいました。

さて早速現行版のものと訳の読み比べを「かわせみのマルタン」でしてみましたが、大部分としてはそこまで変わっているわけではないですね。

幾つかの相違点、と言っても表現の違い(単語レベルではなく文章レベルでの)が見られる程度で、読んだ感触にもこれと言った違いは感じられませんでした。

しかし改めて読んで感じたのは、この絵本の素晴らしさです。

少し長いのですけれど、科学絵本をという枠を超えて、一篇の美しい短編小説である、そう言いたいほどの抒情が、静かに流れているのです。

ある美しい川、その川の生き物たち、そして、その川に住み着いたかわせみのマルタンを観察し、愛する、ひとりの人間の、六年の物語。

自然の中で生命が尽き、そしてまた生まれていくことの尊さが、何よりも美しい言葉で語られているのです。

自然の風景描写、動物たちを見守る視線、そして時折、ほんの時折現れる、人間の感情。石井桃子さんの訳(大村百合子さんの?)が素晴らしいのでしょうか?


***

そのつぎの春、わたしはまた、あの、小さな白い橋のところへ、いってみました。(中略)

ヤナギの枝には、ねこのしっぽのような、灰色の花がさがっていました。また、そこら中にキンポウゲが、さいていました。

こうしてあたらしく生まれてきたものにかこまれて、わたしはかなしく、かわせみたちのことを思い出していました。

すると、そのとき、とつぜん、フルルル、フルルル!稲光のように、青いつばさの二羽の小鳥が、水とすれすれに、橋の下をくぐってとんでいって、枝の上に止まりました。マルタンとマルチーヌの子どもたちが、生まれ故郷にかえってきたのでしょうか?

それは、どうかわかりません。わたしには、なにもわかりません。それでも、わたしは、うれしく思いました。命はたえずうけつがれて、つづいていくと、わかったからです。

わたしの川は、やがて、大きな川に流れこみ…(中略)

去年のカゲロウは、もう生きていません。けれども千日たてば、アシのあいだから、雲のようにすきとおった羽が舞い立ち、カゲロウはまた、青い空の下で、一日きりのダンスをおどるでしょう。

マルタンたちは土の下でねむっています。(中略)

きょうは、なにもかもが、青くすんでいます。空も、水も。そして四つのつばさは、青空よりもこい青です。そして、水は、うたいながら流れていきます。

***


省略を多くしてしまい、元の文章の美しさが損なわれてしまっているのが申し訳ないのですが、少しでも伝わるようであれば、嬉しく思います。

現行版も素晴らしい絵本ですけれど、旧版は紙質、印刷に独特の味わいがあり、この絵本が好きな方には是非お勧めしたいものです。

また「かわせみのマルタン」の英語版(1940’s)のもののみ、今回更新した中では印刷がリトグラフ印刷になっています。こちらもオススメです。


当店のロジャンコフスキーの絵本はこちらです。

ペール・カストールシリーズの絵本はこちらです。

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