愛する人の不在を、どうやって耐え忍べば良いのでしょうか。
心の中に空いた空間を、その愛する人で埋める事ができない時には、何処へ気持ちを持っていけば良いのでしょうか。
欠けてしまったものは、その欠けたもの以外のものでは、もう埋めることが出来ないのは、わかっているのですけれど。
「IF YOU LISTEN」Charlotte Zolotow Marc Simont(1980年)
主人公は一人の少女。その少女の父親は遠くへ行ってしまって、それからもう随分と時間が立ちました。
ある時、少女は母親に尋ねます。
「遠くに行ってしまった人が、お母さんのことを愛していると、どうやって知れば良いの?」
「あなたは、お父さんのことを言ってるの?」
「そうよ。いまは会うことも出来なくて、声を聞くことも出来なくて、私を抱きしめてくれることも出来ないのに、どうやってお父さんが私を愛していると、知れば良いの?」
母親は言います。
「寂しい時には立ち止まって、耳を澄ますの」
「教会の尖塔が見えなくても」
「鐘の音は聴こえてきます」
「もし耳を注意深く傾ければ、歌声は、充分に聴こえるでしょう」
「それかね、」
「あなたが夜寝るとき」
「暗闇の中で周りは何も見えなくなるけれど」
「部屋の外の音が、聴こえるはず」
「遠くの川の、霧の音」
母親は娘に、様々な「耳を澄ますこと」を教えます。
自然の中の音、自分以外のものの音、ずっと遠くの音。
耳を澄ますのは、きっと、時間を、自分以外の世界の音を聴くことなのではないでしょうか。
自分の中の欠けたものは、自分の中に目を向け続けてしまうと、強調されてしまう。
だから母親は娘に、世界の側へ目を向けることを、また、その中にもきっと、父親の愛が溢れていることを、伝えようとしているのだと思います。
シャーロット・ゾロトウの短く、美しいお話が光っている絵本なのですけれど、マーク・シーモントの絵も素晴らしいですね。
「木はいいなあ」や「はなをくんくん」でこの作家に親しみを持っている方も多いかと思いますが、シーモントはこのような絵も描いていたんですね。
シーモントは作品によってだいぶ作風を変えるのですけれど、この絵本ではまた違った一面を見せてくれていて、このお話の持つ美しい寂しさを、母親と娘の愛情を、シーモントはこれ以上ないほど切なく、描き出しています。
こちらの絵本は自分の知る限りでは翻訳もなく(もしされていたら教えて下さい…!)、アメリカでもすでに絶版になってしまっている絵本です。
母と娘の美しい愛情を感じることの出来るかと思います。
ぜひオンラインストアの方でもご覧ください。
当店のマーク・シーモントの本はこちらです。
シャーロット・ゾロトウの本はこちらです。
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