茂田井武さんの本を紹介するのは初めてだったかな、と過去の記事を調べてみると8年前に『ton paris』を紹介しておりました。
茂田井さんは絵本の仕事では『セロひきのゴーシュ』がよく知られていると思いますが、2000年代以降に子どものための絵を(絵本、イラスト)をしっかり見始めた自分にとってはやはり『ton paris』が非常に印象的でした。
(こういう方は多いのではないでしょうか?)
美しく、素朴で、ひとりでに優しく輝いているような絵。
この『月夜とめがね』(1954年)も、自分にはそんな茂田井武の暖かさが感じられる素晴らしい本です。
タイトルを見てすぐおわかりになると思うのですが、こちらは小川未明の童話集に茂田井武が挿絵を付けた絵本ですね。
少しややこしいのですが、絵を全て茂田井武が手掛けているのではなく、表紙絵と本文中の挿絵を茂田井武が手掛けており、最初の扉は岡村夫二が、それに続く2枚のカラーイラストは井口文秀と中尾彰がそれぞれ描いております。
本編のページを捲り始めるとまず驚くのが、本文を囲むように描かれた装飾絵が、1ページ毎に異なっていることです。
ページを進めると、装飾絵は繰り返されていることがわかるのですが、見開きで1ページとして、10種の絵柄の装飾絵が繰り返されていきます。
そして、この装飾絵は小川未明の童話をもとにそれぞれ描かれたものになっていて、ぐるりと囲まれた絵が、その童話の印象的な場面だったり、お話の流れを描いたものになっているんですね。
スミではなく青っぽいインク1色で刷られており、これが本当に良いんです。
最初に書いたような、美しく、素朴で、ひとりでに優しく輝いているような絵。
未明の童話は寂しい感触を残したりするものも多いですけれど、茂田井武の絵と響き合うと、その寂しさが柔らかく、深い余韻として感じられる気がしますね。
本書はなかなか見ることのない貴重な本のため、お値段も結構してしまうのですが、ぜひ御覧頂ければと思います。
0コメント