「ヨッケリなしをとっといで」フェリックス・ホフマン Felix Hoffmann

フェリックス・ホフマンの絵本は以前もご紹介させていただきましたが、ホフマンと聞いて思い浮かぶのは、色を重ねて表現される淡くやさしい色彩や、すらりとした頭身の人物たちなど、大人が思わず手に取るような美しい絵本ではないでしょうか。

今日紹介させていただく『ヨッケリ なしを とっといで』は、ホフマンの作品の中でも特異なものと言えるかもしれません。スイスの古いわらべうたを題材としたこの絵本は、

ヨッケリ なしを とっといで

だけど なしは おちたくないよ

すると おやかた いぬに いった

ぱくっと ヨッケリ かんどいで

いぬは ぱくっと かみたくないよ

ヨッケリ なしを とりたくないよ

なしは まだまだ おちたくないよ

すると おやかた ぼうに いった

ごつんと いぬを ぶっといで…

というような積み上げ話になっています。この作品がほかのホフマン作品と違っている特徴のひとつは、小さな主人公の男の子ヨッケリを始めとするユーモラスで可愛らしい登場人物たち。そしてそれらを効果的に見せるために、普段のホフマンの絵より太くカッチリとした輪郭線を版画で描いているところにあります。

ヨッケリ、いぬ、木のぼう、ほのお…擬人化された個性的な登場人物たちが、ひとつ、またひとつとどんどん現れます。まるでスタンプをポンポン押していったかのような絵は、ほかのホフマン作品には見られない、なんとも可愛らしい印象です。

そして、もうひとつの特徴は本の大きさとかたちです。一筆箋をひと回り大きくした程度しかないこの絵本、本棚に並べるとその小ささはとっても際立ちます。背が10cmほどしかないために、タイトルだけしか入らず、作者や出版社名は書かれていません。こちらの本を発行した長野県にある「小さな絵本美術館」によるカバー見返し部の説明には、この本はホフマンの〈子どもたち自らが開いて楽しめる、子どもたちの手に合ったサイズの絵本を〉という思いから生まれたとあります。

そして『おおきなかぶ』を思い出させるような、積み上げ話のおかしさをとても効果的に見せる横長の判型。ホフマンの思いがそのままかたちになった小さな絵本、手に取ってページをめくるごとに嬉しくなってしまいます。

リズミカルで、可愛いらしい語感で進むおはなしと、そして積み上げ話の最後はやっぱりこんな微笑ましいドタバタ劇がいいですね。

なしの季節はまだまだ先ですが、とてもおすすめの絵本です。


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