「Mhulena, krasna panna」Adolf Zabransky

この作家が線を引けば、たちまちそこには風が吹いて、その少女の髪を、咲き誇る花を揺らして、その季節の匂いをページをめくる自分まで、運んでくれる。

アドルフ・ザーブランスキー。

知ってしまえばこの名前はまるで魔法のように、その響きを聞くだけでも、その風の匂いで、その名を知るものの胸を満たしてくれるのです。

スロヴァキアのおとぎ話/伝説集であるこの絵本のテキストを手掛けているのは、ヤロスラフ・サイフェルト。チェコスロヴァキアの作家/詩人で、ノーベル文学賞受賞作家ですね。

収録作の中には「シンデレラ」のようによく知られているものもありますが、そのほとんどはあまり知られていないものばかりですね。解説にも書かれていますが、スロヴァキア語の物語はそのマイナーな言語故に、あまり広まることがなかったようです。

知らない物語でも、その絵を見るものを魅了するザーブランスキーの筆は、ほんとうに素晴らしいです。

ザーブランスキーの絵本は比較的大きな判型のものが多い気がしますけれど、その中でもこれは一番大きいかもしれません。縦は30cmをゆうに超え、ページ数も200ページを超える、まるで画集のようなおとぎ話の絵本です。

モノクロ、カラーの挿絵を多数見ることができますが、特筆すべきは見開きで大きく描かれたカラーページです。

ザーブランスキーはこの絵本では、他の彼の絵本では見られないような表現を獲得しています。それはまるで壁画のようです。

一つの画面の中に、幾つもの物語の次元を持ち込み、一枚絵の手法のようにも見えますけれど、ザーブランスキーのこの表現は、どんな一枚絵にもなかったほどのドラマチックさを、こちらの感情を揺さぶられるほどに、感じさせてくれるのです。

この本全体に魔法が掛かっているかのようにも思えてしまう、そんな豪華な絵本です。ザーブランスキーの古い刷の絵本と比べると印刷があまり良くないことだけが、少し気になりますけれど、ザーブランスキーの絵の表現としてはその多くの作品の中でも特に素晴らしいものです。


当店のザーブランスキーの絵本はこちらです。

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