「やぎと少年」「DIE NARREN VON CHELM」アイザック・バシェヴィス・シンガー

遠い国の、見も知らぬ人々の物語を、お話を聞くことは、読むことは、なんと楽しく愉快なことでしょうか。

イディッシュ語の作家として初めてノーベル文学賞を受賞した作家、アイザック・バシェヴィス・シンガー、少数のものたちが使用する言語を用いながらも、深い物語の力によって、世界中の人間へ届く文学を生み出したこの作家は、多くの子ども向けの作品も書いています。

その中でも幾つものお話の舞台となっているのは、ポーランド系ユダヤ人の民話/伝説に度々出てくる「ヘルム」という架空の町です。

ヘルムに住む人々はみんな間抜けでおっちょこちょいで、読者を驚かせるようなとんでもないことをさんざんやらかしてしまいます。

それでも憎めない、この町の住人達を、シンガーは生き生きと、面白おかしく描き読者を楽しませてくれます。

このヘルムのお話が入っているのは、当店にある本の中ではこちら、「やぎと少年(岩波世界児童文学集17)」と「DIE NARREN VON CHELM」(ドイツ語版)です。

ドイツ語版のものは、以前に日本では「ヘルムのあんぽん譚」と言うタトルで出版されていたものですが日本語版は現在は絶版になっています。

挿絵を描いているのはなんと「やぎと少年」はモーリス・センダック、「DIE NARREN VON CHELM」はユリー・シュルヴィッツが描いています。

シンガー/センダック/シュルヴィッツという非常に豪華な三人が並んでいますが、この三人の名前を見てピンと来る方もいるかも知れません。

この三人はみな、ポーランド系ユダヤ人の血を引き、アメリカ/NYへ渡った移民としての経歴を持っているのですね。

勿論、それぞれの出自は異なっているのですが(センダックは移民二世、など)、彼らが、挿絵を描いた二人がその繋がりを、自分の血の中にも流れてたいた物語を見なかったとは考えにくいことです。

私はずっと以前から、自分と近い人が語るお話よりも、遠い人たちのお話を聞くことが好きでした。

極端な言い方になるかもしれませんが、読書をする時にはなるべく「共感」ということをしないようにさえ、していたように思います。

安易な共感は、排他主義やナショナリズムを生み出す危険なことだと、距離を起きたい気持ちもあるのです。

まったく知らない民族の、まったく知らない言葉で書かれた物語が、また小さな言葉である日本語になり、それを読むこと。その物語に魅了され、遠い国の遠い人々のことに思いを馳せること。

それはなんと楽しく、また、そこに豊かなものがあると思わずにはいられません。

イディッシュという失われつつある言葉で語られたお話を、是非読んでみて下さい。

こちらの2冊、オンラインストアの方でもご覧頂けたら嬉しいです。


当店のアイザック・バシェヴィス・シンガーの本はこちらです。

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