その名前まで、チェコになじむ、不思議な響きを持つ出久根育さん。デュシャン・カーライに師事した彼女の描く世界は、日本人でありながら、東欧の幻想的な空気を纏っています。
以前、東京のちひろ美術館でこの絵本の原画を見て、その絵の透明感、繊細さ、突き抜ける発色にドキドキしたことを覚えています。
それにしたって、なんて風変わりな登場人物たち!そもそも「かわいらしい」あめふらしだなんて言うから、調べてみるとちっともかわいい生き物なんかじゃない。カラスには手が生え、止まり木はハンガー。バスタブの池には若者を飲み込む大きな魚(やっぱり手足が生えている)。千里眼の王女さまは十二の窓を持っていて、第一の窓から見渡すと、王女はもうだれよりも遠目がきき、第二の窓からはさらにするどく、第十二の窓ともなると地下にひそむものまでも、なにひとつ王女の眼からかくれることはできないのです。結婚に気の乗らない王女は、自分の眼からすっかり姿をかくすことができたものを夫にするとおふれを出します。
すでに挑戦に敗れたものが97人。そして最後に名乗り出た三兄弟。上の兄ふたりは98、99番目の脱落者となってしまいます。残った末の弟は、カラス、魚、キツネに知恵を借り、かくれんぼに挑むのです。
次々とありえない形で物語は具象化されてゆき、それはグリム童話独特の不穏さと重なり合ってゆきます。1ページ目を開いた時から、不思議の世界へ入ってしまった!という昂揚感。
テーブルにもなる王女さまのドレス、花が咲いたり魚介が乗ったりする王女さまの髪。描かれた要素ひとつひとつに、出久根さんの魅力を見つけながらページをめくる喜び。そして、若者が100番目の脱落者になったのか、絵の中に散りばめられた数字を探しながら、ゆっくり読み進めてゆくのもまた、この絵本の楽しみのひとつなのです。
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