表紙のコブタはベットの上に仁王立ち。手を腰にあて、なにやら怒っている様子。その理由は一番最初の文章に。
パパとママは、8時になったらあかりをけしてという。
暗いと怖くて眠れないのに。
けれど、お話はそれっきり。次のページから最後までずっと、まるっきり文はなく、コブタもほとんど登場せず、ひたすらに「ルーブ・ゴールドバーグ・マシン」を辿ってゆくのです。
この聞きなれない「ルーブ・ゴールドバーグ・マシン」という言葉、カバー折り返しに添えられた、訳者の久美沙織さんの文にあります。
なにかの動きが、次のスイッチになり、次々に連鎖する、こういうのを「ルーブ・ゴールドバーグ・マシン」というそうだ。
パパとママの注文に怒ったコブタが、スイッチを入れてからあかりが消えるまでに、うんと時間がかかるように「ルーブ・ゴールドバーグ・マシン」を発明した。 言葉で説明するなら、物語はただそれだけなのです。そのシンプルで純粋なワクワク。読者である私たちは、ベッドに入ったコブタの代わりにそのマシンがうまく動いているかを見届けてあげるのです。なんて楽しい役目だろう。
一生懸命家中をマシンが稼動する中、まるで知らん顔であくびをしてベッドに入るコブタと、リビングでくつろぐパパとママ。その「ズレ」の可笑しさと心地良さ。
マシンに使われている道具はもちろん、眠りに落ちていくコブタのその表情まで、ガイサートのひとつひとつの仕事の細やかさと精確さには、いちいち驚かずにいられません。ガイサートの用いる銅版画という技法が持つ、手仕事ならではのインクのにじみや線の歪さ。それらの性質はこの原始的なからくり仕掛けに効果的に働いて、電気仕掛けのスムーズさから遠ざけてくれます。だからこそ、こちらは「いいぞいいぞ」とひとつひとつのからくりを見つめる視線に熱が入るのでしょう。
文字のない絵本なので、夜寝る前にからくりを眺めながらコブタと一緒にゆっくり眠りへ落ちてゆきたいけれど、連鎖するワクワクが思いとは逆に働いて、むしろ眠れなくなってしまいそうだ。
当店にも在庫ございます。
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