「あわれなフェドーラ」チュコフスキー トワルドフスキー

ほとんどご紹介できていないのですが、当店ではロシアの古いペーパーバック絵本も実は在庫しています。出店時には持って行くこともあるのですが、ロシア語の表記の問題などでサイトへのアップは現在見送らせていただいているんです。

いつかまとめてご紹介できればと思っておるのですが、本日は日本語で楽しめるロシア絵本が入荷しておりますので、こちらをご紹介させてください。

「幻のロシア絵本」復刻シリーズとして全10冊刊行されたうちの一つ、「あわれなフェドーラ」です。このシリーズは、2004年に芦屋市立美術博物館を皮切りに、東京都庭園美術館など全国6カ所で開催された「幻のロシア絵本 1920-30年代」展に合わせて作られたものです。そのシリーズ名にふさわしく、絵を手がけたトワルドフスキーについては、レニングラードで活躍していたということ以外詳しいことはわかっておらず、こうしたロシア絵本の忘れらた名手とも呼べる人たちの作品を、展覧会の企画者でもあり、ロシア絵本のコレクターでもある沼辺信一さん監修のもと、復刊されました。

ロシア絵本らしいペーパーバックの体裁を採用しながらも、タトウと呼ばれる紙のファイルに日本語訳の冊子とペーパーバック絵本が入れられるという手の込んだ仕様になっています。また、「(当時の)最新のデジタル撮影と微小な網点を採用した特殊印刷で往時の石版の風合いを忠実に再現した」そうで、最新技術で真新しい紙に刷られているものの、ロシア絵本独特の素朴さやあたたかみが感じられる不思議な魅力を持つ絵本になっています。

この「あわれなフェドーラ」は、フェドーラばあさんにこき使われるのがいやになった桶やほうきが逃げ出し、お皿やポットが宙を飛んでいく、まるでイギリスのマザー・グースのような詩なのですが、作者のチュコフスキーという詩人は、新聞の特派員としてロンドンに滞在し、英文学を学んだということですから納得です。逃げ出した食器や道具たちの様子をリズミカルに歌い、それを追いかけてフェドーラばあさんが登場します。タイトルだけですと、残念なフェドーラばあさんという印象を受けますが、最後には逃げ疲れて壊れたり汚れたりした道具たちを、改心したフェドーラばあさんがなだめて家へ連れて帰り、仲良くお茶の時間を過ごすハッピーエンドになっています。

トワルドフスキーの絵は、ステンシルやトールペイントを彷彿とさせるタッチで、白を残すことで光沢や丸みを表現した道具や人物は、ぽってりとした愛らしい印象を受けます。また、動物たちは二本足で立っているものの、多くのマザー・グース絵本でなされているような擬人化はされておらず、描かれた花模様がさり気なくお皿に表情を与えると言った遊び心が見られます。絵の雰囲気を損なわずに、ちょっとした気づかいが施された見事な作品を前にすると、本当にこの作家があまり知られずにいたのかと驚いてしまいます。

日本でも多くの方に愛されているロシア絵本ですが、まだまだ知られていない素晴らしい作家がいるのだなと教えてもらえるシリーズではないかと思います。ご興味持たれましたら、是非一度読んでみていただきたいです。


当店のロシア絵本はこちらです。

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