「リッランとねこ」イーヴァル・アロセニウス

若くして亡くなった芸術家が、まだ幼い愛娘のために描いた1冊の絵本。

スウェーデンで1909年に刊行されて以来、愛され続けたこの古典名作絵本『リッランとねこ』。

日本語の翻訳版は、以前福音館書店から出ていたのですが、ここ10年ほどは重版もされず、品切れになってしまっておりました。

しかし昨年末に徳間書店から復刊され、また新品の絵本が手に入るようになりました。

この絵本の流通が安定している(欲しい時に注文をすれば手に入る)のは、大変喜ばしいことです…。

何を隠そう、自分もこの絵本を心から愛する一人なのですから…。

お話は、一人の小さな女の子、リッランが猫にのってどこまでも、どこまでも、お出掛けをする話…。

道中リッランは、豚に会い、ワニに会い、怖いおじさんに会い、やがて大きな街に辿り着き、王様に会ってご馳走をもらい、お腹いっぱい食べたら猫のお腹が破裂して…。

猫と一緒にどこまでも続く冒険。

そして長い冒険の後に帰ってくる、母親の膝の上。猫と一緒に。

けれど父親は何処にも登場しません。

娘が2歳のときにこのお話を描き、その翌年にはこの世を去ってしまった作者、イーヴァル・アロセニウス。

自分の娘をリッランと言う愛称で呼んで可愛がっていた彼は、この絵本を作っているときには自分の死を予感していたのではないでしょうか…。

娘が、友である猫ともに楽しく冒険し様々な経験を経て、再び、安心する我が家である母親のもとに帰ってくるこのお話を、自分がもういないであろう世界を生きていく娘に。

そういう思いもありつつ作り上げたのではないかと考えると、この絵本のページを閉じるときには、自分は胸が一杯になってしまいます。

楽しいリズミカルな言葉、魅力的な登場人物(出てくる王様が好きです…)。

この絵本の中には、安心と楽しさしか無いですし(この「安心」と「楽しさ」を思うと、マリー・ホール・エッツの絵本の魅力も思い出します。)、それだけで素晴らしい作品なのですけれど、こうした創作の背景を想像すると、この絵本は、自分の中でも特別な一冊になってしまいますね…。

本当に大好きな絵本なので、新品流通があるうちは、いつも店に在庫があるようにしておきます。

多くの方に手に取って頂きたい、素晴らしい絵本です。

どうぞご覧下さい。


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