「クリスマス・イヴ」マーガレット・ワイズ・ブラウン 文 ベニ・モントレソール 絵

マーガレット・ワイズ・ブラウンの絵本を、もう何度紹介したでしょうか。わずか42年の生涯の中で、100冊以上の絵本を遺した彼女が、最後に書き上げたのは、こんな静かな、クリスマスの夜のおはなしでした。

まよなかのことでした。

それも クリスマスの そのばんでした。

こどもたちは とこについても ねむれません。

ねたふりをしたまま さっきから みみをすませていたのです。

となかいや キャンデーや おほしさまや てんしや 3にんのはかせたちが めにうかびます。

やがて ひとりのこが いいだしました。

「ねむるまえに みんなで したへいって クリスマス・ツリーにさわって おねがいごとをしよう」

こんな風に始まり、四人の子どもたちがこっそりとベットを抜け出し、そしてまたベッドに戻るまでの短い時間が、ワイズ・ブラウンの静謐な詩のような文章で語られます。

特別なことは何も起こらない、静かで、ささやかで、冷たい雪の夜に灯った小さなあかりのようなおはなしです。

そして、読んでいる私たちの耳にも、静かな世界の中、ぽつりぽつりと、いろんな音が聞こえてくるのです。階段のきしむ音、暖炉の火がぱちぱちとはぜる音、窓の向こうで大人たちが歌うきよしこのよる、そして子どもたちの息づかいと胸の鼓動。

絵はひと目見てお気づきの方もおられるかと思いますが、当店でも何度かご紹介させて頂いているベニ・モントレソールです。

彼の色使いにはいつも驚き、わくわくさせられるのですが、この絵本でも、黒の線に背景は鮮やかなオレンジ一色、ときおり使われる黄色、この暖色だけの組み合わせで、見事に冬の夜を描いています。

冷たさ、暖かさ、静けさ、高揚、そのすべてがオレンジ一色で表されているのです。以前紹介したことのあるジェイムス・ブランスマンが描いた「いちばん美しいクモの巣」を思い出しもしますが、雪の夜の描写から始まるこのおはなしを、オレンジ色の絵本にしてしまうなんて!と、やはり驚きと嬉しさがこみ上げてしまいます。

眠る前の子どもの読み聞かせにも良さそうな本ですが、個人的には大人が眠る前ベッドの中でゆっくりと眺めるのにも良いのではないかと思います。

ワイズ・ブラウンの言葉、モントレソールの絵、そして矢川澄子さんの素晴らしい翻訳で創られた、美しくあたたかいクリスマスの絵本です。


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クリスマス・イヴ」マーガレット・ワイズ・ブラウン 文 ベニ・モントレソール 絵

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