8月に入ってずっと横浜はすっきりしないお天気が続いていますが、夏はお祭りの季節でもあると思います。
夏の夜は美しく、やはり古来より不思議な感覚を呼び覚ましてきたのですね。
夏の夜のお祭りというと、シェイクスピアの「真夏の夜の夢」が思い浮かびますが、このアイリーン・ハースの絵本「サマータイムソング」も何処か似た雰囲気のある作品です。
夏の夜にカエルが、ひとりの女の子に誕生日パーティーの招待状を持ってきました。
女の子は外へ出て、パーティーの会場へ向かいます。
道中で出会う人形や小鳥や虫たち、そして彼らとの冒険を経て、誕生日パーティーの会場へ辿り着きます。そこで皆で歌って踊っての楽しいパーティー…。
以前にハースの「わたしのおふねマギーB」を紹介した際にも指摘しましたが、ハースの絵本は何処か不思議な部分を秘めていると感じられるのですね。
それはこの絵本でも少なからず感じられます。とても楽しそうなパーティーなのですが、これは一体誰の誕生日パーティーなのか、はっきりと示されていはいないのです。(フクロウが登場しケーキを前に「覚えていてくれてたとは」と言うのですが、これはフクロウからの攻撃を避けるためのその場しのぎに拵えたお話、という感じがします)
何か大事なことが説明されないまま、辻褄が合わないのだけれど、合っている体でお話が進行する、それはまるで夢を見ているような、そんなお話なのです。
ハースの絵本のお話はとても楽しく幸福な世界が描かれていると一見思ってしまいそうなのですが、そこにはそうした世界が描かれているだけの作品とは違う陰影があり、それこそが、このハースの絵本を特別なものにしているのだと思います。
女の子はパーティー会場へ向かう途中である人形と出会うのですが、その人形が口にする「わたしのものがたりは、ハッピーエンドでおわるのですか?」という台詞は、このハースの物語のもつ陰影と奇妙に響いて、ドキッとしてしまいます。
妖精たちが跋扈する夏の夜に、虫の歌声を聞きまどろみながらページをめくるには、ぴったりの絵本です。
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「サマータイムソング」アイリーン・ハース
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