「小さいりょうしさん」ダーロフ・イプカー

アメリカの女性絵本作家ダーロフ・イプカーの本は、随分前に二度書かせていただいましたが、邦訳作品を紹介するのはこれが初めてになります。2012年に邦訳出版されたこの絵本は、実は彼女のデビュー作で、原書が出版されたのは1945年、今から72年も前になります。

イプカーの絵本のほとんどは人間より自然や動物たちを主役に描いているのですが、こちらは「小さいりょうしさん」というタイトルどおり、漁師が主役のおはなしです。とは言いましても、海、空、海の生き物たちが画面いっぱいに描かれたページが多く、やはりその視点は主に自然や生物に向けられていると言えるかもしれません。

おはなしは、とある港の大きいりょうしさんと小さいりょうしさんが泊まり込みで漁に出るおはなしです。

大きいりょうしは、大きいすいふをふねにのせ…

小さいりょうしは、小さいすいふをふねにのせ…

と、はじまりからおわりまで、大きいりょうしと小さいりょうしを対比させながら描かれています。

大きいりょうしは大きいさかなを、小さいりょうしは小さいさかなをそれぞれたくさん獲って港へ帰ってさかなを売ります。それから大きいりょうしは大きいこどもたちと大きい奥さんが待っている大きい家にかえり、小さいりょうしは小さいこどもたちと小さい奥さんが待っている小さい家にかえります。

特別なことは何一つ起こらない、ただこれだけのおはなしなのですが、対比を基にした絶妙な節のある文章が耳に心地よく、読んでいると自然とリズムが生まれます。

それもそのはず、おはなしを書いたのはアメリカを代表する児童文学作家マーガレット・ワイズ・ブラウン。なんとイプカーはデビュー作でこのような幸運な共演を果たしていたのですね。

驚くのは、その後40年にわたり30冊以上の絵本を手がけることになるイプカーが、はじめからこの洗練されたスタイルを確立していたことです。限られた色を効果的に使い、鮮やかであたたかな独特の世界をつくり出しています。見返しまで海の生き物が沢山描かれ、イプカーの絵を存分に楽しむことが出来ます。

1988年に出版された「よるのねこ」以来、イプカーの本が日本で見られることはありませんでしたが、近年自国での再評価とともに日本でも続けて3冊の絵本が出版されました。これは、その最初の1冊で、日本語でイプカーの絵本を楽しめる数少ない作品です。

今後も少しずつ邦訳出版されていってくれたら嬉しいですね。

大人が楽しむのはもちろん、読み聞かせにも向いていますし、海の生き物が好きなお子さんにもおすすめです。


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小さいりょうしさん」ダーロフ・イプカー

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