「ふりかえりおじさん」安西水丸

イラストレーター安西水丸さんは、とても多彩な方でした。小説、エッセイ、装丁、絵本、漫画、ポスター。そのどれを取っても安西水丸さんらしさの感じられる作品ばかりに感じられました。安西水丸さんや、和田誠さん、長新太さん、私が生まれる前から創作活動をされていた「おもしろいおじさん」たちはみんな、おもしろいものを発見する能力だけでなく、物事をおもしろがる才能にも長けているように見えました。80年代には世の中の一般的な考えや仕種に興味があった安西さんが、普通の人たちをそのまま描いてみた、という「普通の人」という漫画なんかも出版されています。

今日紹介する安西水丸さん絵本は、短い、子ども向けの絵本です。

お話もとてもシンプル。女の子がいつも丘の上で会うおじさんは、かならずふりかえってくれます。ある時は笑っていて、ある時は困っていて、またある時は怒っている。明日もまた会いましょう、と女の子が眠りにつく。ただ、それだけのお話です。

リズミカルな短い文に、子どもの好きなくり返し、そして少ない線と鮮やかな配色の絵。普通に読んだあとには、次はどんな顔かを聞いたりしながら読んでみるなど、子どもへの読み聞かせにも良さそうです。さて、「ふりかえりおじさん」とはいったい誰なんでしょう?その答えとも取れる絵が裏表紙にあるのですが、大人である私は本当にそうかな?と、ついつい安西さんの裏を読みたくなってしまいます。

ですが、この絵本は、安西さんが道を歩いていたときにじっと安西さんのことを見る女の子がいて、何度ふり返っても見ているものだから、ふり返る度にちがう顔をしてやろうかな、と思ったことをもとに作られたそうです。きっかけもこんなにシンプルなのですから、やはり言葉や絵をただ単純に楽しめば良いのかもしれませんね。

先に「子ども向けの絵本」と書きましたが、安西さんの親しみやすさやおかしみは、ちいさな子どもだけにしかわからないものじゃありません。この絵本は1979年に出品されて長らく絶版になっていたもので、多くのリクエストがあり没後1周年の2015年の3月、安西さんの命日に合わせて復刊ドットコムから復刊されたものです。安西さんらしさが詰まったこの絵本を、私を含め、多くの大人が読みたいと思うことは、少しも不思議ではありませんね。

2014年に急逝されてから、もう3年以上が経ちましたが、今でも変わらず新しく出版される本や雑誌で安西さんのイラストを見かけ、その度に、本当にもう安西さんはいないのだろうかと不思議な気持ちになってしまいます。いつも、こっちをふり向いて色んな表情を見せてくれる「ふりかえりおじさん」に、安西さんの姿が重なります。いったい次はどんな顔をしてくれるんでしょうか。


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ふりかえりおじさん」安西水丸

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