詩人まど・みちおさんは、以前柚木沙弥郎さんとの共著「せんねんまんねん」で少し触れさせて頂きましたが、それももう2年も前のことでしたので改めてご紹介させて頂きます。もちろん言わずと知れた日本を代表する詩人なのですが、その多くは童謡として多くの人に親しまれてきたのではないかと思います。「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「ふしぎなポケット」「1ねんせいになったら」きっと知らない人なんていませんよね。
みじかく並べられた文章には、遠回りしない、本当に大切な気もちだけがぽつりと呟かれていて、まどさんの詩を読むといつも、小さな子どもがふいに核心を突く発言をしたときのように、う、っと返す言葉を見失ってしまいます。
そんなまどさんの詩は、たくさんの画家やイラストレーターの方々が絵を添え、何冊もの絵本が作られていますが(今年の3月にも西巻茅子さんが「ぞうさん」の絵本を出されましたね)、本日紹介する「びーだまのまほう」は、まど・みちおさんが書いた童話作品なんです。
どんなおはなしかといいますと、お留守番に飽きたてつおくんに突然びーだまが話しかけるところから始まります。「ぼく、まほうがつかえるんだぞ。ぼくをぎゅっとにぎって、それからそうっとひらくんだ。ほらもう きみのてはことりのすだよ。」本当にてつおくんの手は鳥の巣になって、真ん中には卵のようになったびーだまがあります。するとその卵が割れてことりが出てきます。ことりはてつおくんの鼻の中に飛び込むと、すみれをくわえて出てきました。「どこにこんなすみれがあったの?」「きみのあたまのなかに。きみがすみれのにおいをだいすきだから。」今度は耳に飛び込み、せみを連れて出てきます。「せみもぼくのあたまにはいっていたの?」「そうとも。きみはせみのうたがだいすきだから。」その次は、口へ、その次は目へとことりは飛び込んでは出てきます。てつおくんの好きなものなら何でも出してくれることりに、最後にてつおくんが出してもらったのは…。
こうしてお話を要約していても、まどさんがひとつひとつ選んだことばにはそれ以上なにも付け足せずなにも減らせないので、全部をそのまま書きたくなってしまいます。
そんなまどさんのことばの魔法で綴られたおはなしに、太田大八さんの色彩豊かな絵が一層このおはなしにリズムを与えます。淡くなんと呼んだらよいかもわからない沢山の色が大胆なタッチで重ねられ、この少し不思議な物語世界を描いています。生き生きとした筆致は、情熱的であり、でも穏やかでもあって、以前ご紹介した画家の野見山暁治さんの絵を思い出しもします。
この絵本はひとりの男の子の中にある「好き」だけでできた物語です。
それは、まどさんの書く詩、そのもののような作品のように思います。
「ぞうさん」では「おはながながいのね、だれがすきなの」と聞かれたこぞうが「そうよかあさんもながいのよ、あのねかあさんがすきなのよ」と答えます。
この絵本も、こんなシンプルな大事なことだけでできているんです。
ぜひ、沢山の方に読んで頂きたい絵本です。
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「びーだまのまほう」まど・みちお 太田大八
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