昨日に続いて本日もベルリン・コレクションのシリーズを更新しております。
その中から本日はドイツ古典絵本の中でも最も有名な作品と言って良いのではないでしょうか「もじゃもじゃペーター」をご紹介します。
この絵本の刊行は1845年、精神病院の院長だったハインリッヒ・ホフマンが、三歳の息子のために描いた作品です。
きっかけは、彼はクリスマスプレゼントとして息子に何か本を買おうと街の本屋を探し回ったのですが、退屈な教訓ものばかりで、適当なものがなかったからでした。それならいっそ自分で絵本を描いてプレゼントしようと、そう思い立ち作り出した作品なんですね。
この絵本は子どもが主人公(主に行儀の悪い)の短いお話が、いくつも収められた作品になっています。食事の席で暴れる子、嫌いなものを食べない子、ゆびのしゃぶりグセがなおらない子、火遊びする子、友達を馬鹿にする子、そんな子どもたちが登場して、大抵悲惨な結末でお話が終わります。
かなり酷いオチも色々とあるので、出版当時から現在まで幾度も批判の的になってきた作品です。それでも今に至るまで、世界中で愛されているのは、やはりほんとうに「子どもに近い」作品だからではないでしょうか。
子ども向けの絵本、子どものための絵本などと言っても、ほんとうに「子どもに近い絵本」と言うのは歴史的に見てもそうそうあるものではなない気がします。
このことを詳細に検討すると、まるまる論文になってしまいそうなので深入りは避けますが、大人とはまだ別のフィクションの処理をしている子どものためのフィクションと言う感じなんですね。
残酷なお話というとグリム童話がすぐに思い浮かびますが、この絵本がグリム童話と違うのは、このお話が単一の作者で書かれた、つまり「作家性」のようなものが感じられる点にあるかと思います。
(グリム童話は(集団的な)人々の無意識より生まれたお話と言う感覚を強く感じます)
この作家性、そして別の次元のフィクションという点に注目するとアウトサイダーアートとの類似性も見出だせる気もしてくるので、これもまた興味深く思います。
また、作者のホフマンはこの絵本が出版されるに際して、自分のアマチュア的な絵が芸術的、理想的に修正されてしまわないように、石版が作られる際には気を配ってもいたそうです。
この姿勢は長新太さんが「上手く描かないように」と仰っていたこととも共通し「子どもに近い」と考えられる部分と関係があるようにも感じられます。
こうして色々と考えてみると、このような絵本こそが真に芸術的価値の高い作品であると言えるのではないでしょうか。
当店にはこの当時の版を忠実に再現したベルリン・コレクションのものの他に、飯野和好さんが絵を描いたヴァージョンも在庫がありますので、是非オンラインストアでも御覧ください。
「もじゃもじゃペーター」ハインリッヒ・ホフマン(ベルリン・コレクション)
「もじゃもじゃペーター」飯野和好
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