イギリスの絵本作家バーナデット・ワッツの作品には、その作風に前期と後期で誰の目にも明らかな違いがあると以前書いたと思うのですが、この絵本「ラプンツェル」はその前期の作風と後期の作風で二冊の作品があるんですね。
こんな風に後年になって描き直している作品がこのラプンツェルのほかにもヘンゼルとグレーテルなど、ワッツには幾つかあるんですね。
本日紹介するのはその前期の作風の「RAPUNZEL」1977年ドイツ語原書版です。
前期と後期の違いは簡単に言えば、後期のほうが親しみやすい、可愛らしい色使いの絵柄で、前期は何処か不気味さ怖さを残した、神秘的な絵柄と言えば良いでしょうか。
勿論人それぞれ好みがあると思いますが、個人的には前期の絵柄のほうが好きなんですね(一般的には後期のワッツのほうが人気があるのかな、と感じることが多いのですが)。
大きな画面の中で、登場人物たちがひっそりと囁きあっている。建物や草花、そんなものたちの中に人物が埋もれているように描かれているのはまるで、その物語の主役は人ではなく、その物語世界のほうなのだとワッツが語っているように感じます。
前期のワッツの作品はいつもこうして、物語を人物で語るのではなく、その人物がいる世界を前面に描くことによって、その特異な魅力を生み出しているようです。この感覚はどこか、チェコの絵本作家ヨゼフ・パレチェクやワッツが師事したブライアン・ワイルドスミスと通じるものがあるかもしれません。
絵本を開く度に、あっと言う間にその世界へ引き込まれ、物語の内側で、不思議な傍観者となっているような気分にさせられるのです。
upした写真は、魔女がラプンツェルの髪で塔を降りているところを遠くから王子が目撃するシーンですが、鑑賞者の視点はその王子よりも更に遠くの場所から傍観していて、何処かから盗み見ているような感触なんですね。
これは例えばベラスケスのラス・メニーナスを見るときのような感覚とも通じているかもしれません。
ワッツの前期の作品にはこうした不思議な魅力が詰まっているのです。
今日はこのラプンツェルのほかに、前期の代表作のひとつ「ヨリンデとヨリンゲル」も入荷しておりますので、ぜひオンラインストアでもご覧ください。
当店在庫はこちらです。
「RAPUNZEL」Bernadette Watts
「ヨリンデとヨリンゲル」バーナデット・ワッツ
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